いしのだなつよというアーティストがいる。はじめて会ったのは3年か4年か5年ぐらい前。定かではない。会うなり「ニックネームで呼んでいい?」って言われ、それ以来、彼女は俺のことを「あっきー」と呼ぶ。初対面でこんなことを言われたのは後にも先にも彼女ひとり。あーあ、俺としたことがはじめから彼女のペースに巻き込まれてるじゃんよ。でも、たまにはこういう関係も心地よかったりして俺自身まんざらでもない。
そんないしのだにしばらく振りに電話をかけた。なんとなくアドレスを検索しているうちに偶然目に止まったからだ。携帯電話の番号が変っていないのを祈りつつコールオン。こういう時って本当に緊張する。全然知らない人が出たらどうしようなんて思ったりして。
受話器の向こうに女性の声。でもいしのだ本人の確信は得られない。思わず「いしのだなつよさんの携帯電話ですか?」って言ってしまう俺。うー、なんて初心(うぶ)なんだ。「あっきーって表示されたから誰かと思ったよ」だって。そりゃないんじゃないの、いしのだ!おまえが付けたんだろ、そのニックネーム。
いしのだは相変わらずいしのだだった。しばらく振りに電話してもすぐに意思疎通ができる関係っていいなと思う。FMのプロデューサー時代、俺はいつもそんな気持ちで彼らに接してきた。プロデューサーとアーティストの関係の前に、人間対人間の出会いなんだからと。
例えキャンペーンという仕事の場で出会った関係だったとしても、それが自分のジンセイを左右する出会いになるかもしれない。ほんの小さなタイミングのズレで俺たちは出会えなかった関係かも知れない。だからこそこの出会いを必然と思いたい。だからこそこの出会いを大切にしたい。そう思うと、人との出会いがワクワクしてくる。
明日はどんな出会いが待っているんだろう。
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