「千歳の言霊」
人生の中でたった一人への永い想い。 其処までひとを好きになった事がないという人を見ては幸せだとも思う。また可哀相とも思う。 やはり一度、殺される必要があるのだ。十歳の時流に途切れず死に切れずにいた恋慕を。 罪の無いあの眼で見つめられてから、隔てた時に砂となったものをひとつひとつ教えてもらわねばならない。焼けた奈落の底を舐めるようにしてそれを知り尽くさねばならない。永き想いを饒舌に語ろうとする唇を封じなければならない。 そうしなければそのうちわたしはなにもかもを壊す。なにもかもを一色で塗り潰す。また、自分を失う。倫理、道徳、掟、そんなもの何の効力も持たない。例えば、全てを失くしてもという強烈な欲望の前で、人間のこころは哀しいほど脆く愚かで、そしてなんと自由なのだろうか。 |