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氷砂糖

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バレンタイン・デイの記憶
2002年02月14日(木)

父親が百貨店に勤めていたので、小さい頃、この日は家にチョコがたくさん入る日だった。わたしと弟は甘いものが大好きなので、そのほとんどを食べていた。よーく考えると、義理でない、本気のが入っていたとしたら気の毒だったかなーとも思うが、たぶん大丈夫だろう。

自分で誰かにはじめてチョコをあげたのは、小学6年生のときだ。なぜかクラスの女子のほとんどがたばになって、男の子達の家を順に回るということになっていた。家がわからないから一緒に行こう、とか、誰とかくんは人気だからぬけがけしちゃ駄目よ、とかいろいろあったのかもしれないが、どちらかといえばぼんやりだったわたしには、事情や背景はよくわからなかった。

それでもなんか楽しそうだし、仲のいい子に誘われたしで、わたしも皆についていくことにした。しかし当時のわたしは、好きな男の子などいなかった。さーて誰にあげたらいいのかなー、と考え、日ごろお世話になっていた、隣の席の男の子にあげることにした。自分より背が低いし、恋愛感情はほとんどなかったけれど、とてもいい子だった。まじめで、サッカーが好きで、色白で、黒目がちの、すこしだけ悲しそうな目をしていた。

皆でわらわらと色々な男の子の家へ、地図とチョコを手にもって行くのはそれなりに楽しかった記憶がある。わたしも小さなカード(これからも友達でいてねみたいな、勉強がんばろうねみたいなことを書いた記憶がある)をつけたチョコをそーっと彼の家のポストに置いてきた。置くときはひとりで行ったので、とてもどきどきした。待っていた友達に、「置いてきたよーっ」と報告して、きゃーと受けとめられた。なんだか、男の子うんぬんというより、皆と遊んでる感覚が楽しかったような気がする。

まじめな彼は3月14日、ひっそりとうちの玄関のはしに、瓶に入った飴を置いていってくれた。包み紙には、細く鉛筆で、「バレンタインデイにはチョコをありがとうございました」とか書いてあって、その几帳面な字面を見ながら、そういえば左利きだったなーと思ったりした。飴がとくべつ好きではないわたしは、賞味期限ぎりぎりでばーっと食べたのだけれど、甘くてミルクっぽく、意外と食べやすい飴だった。

中学1年生のときには、演劇部で男役をしたせいか、女の子から1ダースチョコをもらった。翌年には半ダースになった。中3のときはもらってないような気がする。中学に入ってからは憧れを抱いた先輩もいたし、恋愛感情に近い好き、な男の子もいたはずなのだが、誰かにあげた記憶がない。高校は女子校で、今度は目立たず生きていたので、もらいもせずあげもしなかった(新製品を見かけて自分で自分に買っていた記憶はある)。大学生にもなればもうすこし色っぽい話もあったような気がするが、いいかげん長くなったのでこのへんで切り上げよう。バレンタイン・デイ、といわれて思い浮かぶのは、だいたいこういう記憶だ。

男の子も女の子も、思いが通じても通じなくても、恋をしているひとはみな、いい日になりますように。いい日でありますように。そんなことを思いながら、この日もチョコレート売り場にいた。



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