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夏の男
以前、会社勤めをしていたころ。某宅急便会社のお兄さんが、ときどき荷物を届けてくれていた。担当の人は何回か変ったが、あるひとだけ、今でも覚えている。肌は黒く、目が大きく、南国系の濃い顔立ちのひとで、声も大きかった。無表情だと怖く見えるが、笑うととても愛嬌のある、気さくな雰囲気になった。夏の似合う男の人だった。わたしはあまり話したことがなかったが、他の人と、外国の話で盛り上がっているのを見たことがある。なるほど、だから焼けているのか、と思った程度の認識だったが、頭の片隅に残っていた。
年始、会社の年賀状を整理していたとき、変わった絵葉書を見つけた。きれいな夜景のうらに、勢いのある強い字で、仕事をやめ、今はバリ島で店を出しています、お立ち寄りのさいはぜひ声をかけてください、という内容が書いてあった。一瞬、誰だかわからなかったが、他の人が、「あー、○○さんだー!」と言ったので、顔と名前が一致した。ああ、あのひとか、と。「夢をかなえたんだね、凄いねー」と、他の人も言っていた。なるほど、そのためにお金を貯めていたのか。納得したがそれ以上の興味はなく、最近まで忘れていた。思い出したのは吉本ばななの「虹」を読んだせいだ(バリではないのだが)。
自分が海外によく行くタイプではないので、お店の名前や場所などはメモしなくていいやとしなかった。でも、行かないにしてもメモしておけばよかったかも知れない、という気がいまはする。最初から使える可能性がないのと、あるのとでは、使わなくても(使えなくても)かなり違うような気がするのだ。
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