もうかれこれ10年以上、同じ床屋に通っている。 別にそこは、家や会社から近いわけではなく、腕がよいわけではなく(失礼!)、若くて可愛い看板娘がいるわけでもなく、ちいさなどちらかと言えば、小汚い感じ(また失礼)の床屋で、結構暇そうなのに、予約がいるという少々変わった所である。
ではなぜ通うのか。答えはおばちゃん(60歳)と、世間話をしないといけないからである。 このおばちゃん、なかなか頑固なのである。
「丸刈りにして!」というと、「あんた顔が丸いで、ますます丸になるから辞めなさい」と言い、 「スポーツ刈りにして!」と言うと、「髪に元気がなくなってきてるから辞めや」と言い、 「じゃ角刈りにして!」というと、「あんたの顔には似わんし、スーツも似合わなくなるから辞めや」と、客の注文には、なかなか答えてくれない。最後は根負けして「好きにして!」というと、 「郷ひろみ見たいな頭はどうだ?」とか、「柳葉敏郎みたいなのは?」とか、およそ私の顔とは、違うタイプのタレントの名前を出してくる。 「じゃあジャンレノみたいにして」というと、「それは誰でどんな番組に出てる人か?」から始まって、いつもの世間話が始まる。 お互い大好きなドラゴンズの話、や最近体の調子がどうとか、サッカー選手の川口が大好きで、貯金降ろしてでもデートしたいとか、結局何を話しているのかよく覚えていない事ばっかりなのに、頭をやってもらっている間はおおいに盛り上がってしまうという感じ。
つい最近、糖尿が発覚してダイエットしたら、1ヶ月で7キロも痩せたそうで、急激に痩せた後にできる”首の皺”を自慢気に両手で引っ張って伸ばして見せてもらった。 「すんごい伸びるねえ」なんて言いながら約1時間10分が過ぎていく。そして気がつくと、いつもとほとんど変わらない頭に納まった私が、鏡の中にいる。
相変わらず髭は剃ってくれないし、この前は、左手首が腱鞘炎とかで、半分自分で頭を洗わされた。 何がよくてここに通っているのか、よく分からないんだけど、なんかほっとするんだよね。おばちゃんと話していると。
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