風の行方...深真珠

 

 

壊れゆく世界 - 2002年06月05日(水)

朝10時過ぎに電話が鳴る。
返事がない。
よく聞くと「来て・・・」と細い声が聞こえる。
僕はすぐ病院へ向かった。
昨日よりは多少回復していることを期待していた・・・。

面会して最初に言われた言葉(ぼそぼそ声で)
「お母さん、狂っとらん?」
僕は唖然とした。
看護士さんに聞くところによると騒いだり大声をあげることはないが、精神的にかなり参ってるということだった。

午前中、肩口から、点滴を入れるための管を入れるために処置室へ行く。
(腕の血管は針を入れすぎて奥に入り込んでしまって点滴を打てないらしい)

午後、レントゲンを撮る。

帰ってくると急に携帯電話を握って病室から出ようとする。
「なんするとね?」と聞くと「会社に電話する」と言う。
きっと意識がもうろうとしているのだろうと思い、うまくごまかして携帯をとりあげる。
2,3分後、すっかり忘れてしまったらしく、電話に見向きもしなくなった。

また探し物を始めた。
テレビのリモコンを手に取ると、これは違うといった感じで元に戻す。
きっと財布を捜しているのだと思った(色が同じ黒)
次に、そこ奥の方にあった黒い石鹸入れを手に取った。
それをもって部屋を出ようとする。
「どこ行きよっとね?」
「バスに乗って帰らやん・・・」
泣きそうになった。
粘り強く説得し、ベットに戻した。

次はおもむろに立ち上がると、かすかに唇が動いている。
「なんね?」
「ここのお店の店員さんに聞いて・・・」
状況がまったく理解できていないらしい。

次はまた部屋を出ようとする。
「どこに行きよっとね?」
「飛行機に乗るとよ」
何も言えませんでした。
そのまま部屋を出てエスカレーターのボタンを押したところで、
婦長さんを呼んで対応してもらいました。
僕は一人で病室へ戻り、泣いていました。

やっとの思いで病室に連れ戻し、眠らせた。

しばらくすると、ぱっと起き上がり病室内を歩き出した。
着物を直すそぶりを見せたかと思った次の瞬間、肩口に入れてある管をいきなり引き抜いた。
僕は一瞬の出来事に声が出ず、ナースコールで看護士を呼び対応してもらった。
自らの体に管を入れられる苦痛を目の当たりにして、僕は呆然と立ち尽くしていた。

ちょうどこのとき、医者と明日の手術についての説明があるということだったので、僕はナースステーション(詰め所)へ向かった。

案の定というか、ある程度予測していたとはいえ、医者から発された言葉は、
目の前を真っ黒にさせてくれて、相打ちを打つのが精一杯なほど僕は高ぶっていた。
言葉のひとつひとつが僕を悲しみで包んで、
事実のひとつひとつが僕を胸を掻き回した。
説明後、僕はその場で思いっきり泣いてしまった。

病室に帰ると、薬でぐっすり眠らされていた。

2時間ほど経ったとき、目を覚ました。
僕は看護士に起きたことを告げて戻ってみると、
ベットの上に立とうとしていた。
看護士がかけつけてきて、座らせることに成功したのだけど、
今度はまた病室から出ようとした。
「どこにいきよっとね?」と看護士が尋ねる。
「ちょっと用事のある」
部屋を出ないように進路を塞ぐ看護士を払いのけ、歩き出した。
廊下の途中で立ち止まり、「会社に行かやん」と言い出す。
「ここは病院よ」と声をかけるがよくわかっていない様子。
僕はただ後ろから付いて歩いて、事の成り行きを見守るしかできなかった。
ある程度歩くと、なぜか自分で納得して岐路に付く。
話を聞きつけた主治医もかけつけた。
次は急に廊下の真ん中で立ち止まり
「○○○君(僕のこと)、この紙を上に上げといてね」というので、
「うん、わかった。あげとくけんね」
と、意味不明ながらのってあげて返事をすると、納得してまた歩き始めた。
医者3人看護士2人と僕とでやっとこさベットに連れ戻して、
また薬で眠らせた。
ここまでで6時50分くらい。
8時まで面会時間なので、そのちょっと前に帰宅。

親戚の家に直行。
今日のことをすべて話をした。
今後については、明日の手術を見てから・・・ということになったのだけど、
今後どうなるのかまったくわからない。

苦しみから解放してあげたい。と切に思うが、僕にできることはない気がする。

声をあげて泣きたい。
思いっきり抱きしめたいし、抱きしめて欲しい。
できるなら、今日起こった事実を忘れたい。

でも、本当につらいのは僕じゃない。本人だ。


...




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