風の行方...深真珠

 

 

死神の微笑み <12> - 2003年03月17日(月)

さっき部屋から見た感覚だと、歩いていけない距離ではない。
携帯を見ると、7:29と表示されていた。
小高い丘を下ると、広い道に出た。その道を突っ切って、海の方へ真っ直ぐ進む。
このあたりは町の中心地のようだったが、人気も少なく灯りもまばらだった。
僕は町にはかまわずに海岸のほうにひたすら真っ直ぐ進んだ。
頭に浮かぶのは笑顔の駅員とさっきみた夢ばかりだった。
−ここには私が求める雪があります−
・・・波に飲み込まれる・・・
−朝の空気っていうのは、綺麗なんです。すごく澄んでます−
・・・完全な恐怖・・・
−夜の間に浄化された空気−
・・・完全な絶望・・・
−ここには私が求めるものはすべてあるんです−
・・・僕自身が世界・・・
そして、最後には何もかもが消え失せる。
海岸には37分で着いた。
早歩きだったせいで、少し息を切らしていた。
浜辺に出ると、肌を切るような強くて冷たい海風が容赦なく吹きつけてきた。
砂の上に腰を下ろして、海を見て、雲で覆われた空を見上げ、白い息を吐いた。
白い息は、黒い空にかき消された。
そして僕はまた海を眺めた。
それは、TVで見たような荒々しい日本海ではなかった。
間違いなく、小さい頃に見慣れた瀬戸内の波よりは高かったが、それでも僕の予想よりは穏やかで、
一定のリズムを刻みながら、寄せては返していくことを繰り返していた。
新潟に向けて出発した時、僕は日本海を求めているんだと思った。
今もそれに違いはないが、僕が求めていたものは「荒々しい日本海の波」だったことが分かった。
今日の日本海の波は、僕が求めていたものではなかったが、少なくとも、今日中に浜辺に来れたことには満足していた。
−怖いが凶暴ではない−
確かにそうだと思った。駅員が言ったことは間違いじゃない。



病室にかけられてるカレンダーの3月16日のところに丸がつけてあった。
昨日、「日にちすらわからない。情けない。」とうなだれた親に対して、
「んじゃ、今日が3月16日だから、ちゃんと覚えておこう。」と言ったからだと思う。
甘えてばかりでわがままな親だけど、親なりに前に進もうとしているんだと感じた。
16という数字を囲んだ○は、波打っていて綺麗なものじゃないけれど、
ものすごく力を感じる○だった。
止まってしまった歯車は、少しずつ動き出そうとしているのかもしれない。




...




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