風の行方...深真珠

 

 

死神の微笑み <40> - 2003年04月14日(月)

電話の相手が自分だとわかるはずもないのに、少女の心は「やっぱりみゆきは怒ってるんだ」というやり場のない思いでいっぱいになっていた。
両親が帰ってきて夕飯の順は出来たが、部屋から出てこない少女に両親は心配になった。
父親は「お前が仕事なんてするからだ。」と母親を責め、母親は「あなたに父親面されたくないわ。」と吐き捨てるように言った。
3度電話してもみゆきはでなかったので、少女はベッドに横になって天井を見つめていた。
シミひとつない天井を見ながら、私は汚れてしまったんだと思いこんでいた。
「とりかえしのつかないことをしてしまった。
 自分はもう大人にはなれない。」
台所の方から皿が割れる音が響いていた。
毎月恒例の大喧嘩だった。
少女は毎月その音を聞きながら、あんな大人にはなりたくないと願っていた。
でも、今の自分はあんな大人よりも醜いのだと確信していた。
やがて皿の割れる音がしなくなり、重く深い沈黙が少女を覆いつくした。
いつも皿投げが終わると両親はそれぞれの寝室に戻り、沈黙が訪れてはいたが、今回は少女が自ら望んでその沈黙をより重くより深くしていた。
8時半を過ぎて、少女もお腹が空いてきた。
両親は皿投げのあと、大抵2,3日は部屋からでてこなかったので、少女はその間は自分で料理をしなくてはいけなかった。
少女は一度、ドアを少しだけ開け、両親がいないことを確認してから台所に行った。
台所はいつにも増して悲惨な状況だった。
食器棚にあった皿のほとんどが床で割れていた。
そしてそのほとんどが一ヶ月前に購入したものだった。
食器を拾うのも少女の仕事だった。
少女は食器を拾うときに、右手小指を切ってしまった。
みゆきにあんなことを言った罰なんだと思った。
少し痛かったが、みゆきの心の痛みに比べたらたいしたことはないだろうと考えた。
少女は念のために傷口を消毒し、バンソウコウを貼った。
その時、重く深い沈黙を破る電話の音が家中に響き渡った。
呼び出し音が3度鳴っても、両親とも出てくる気配はなかった。
少女はなんとなく電話にでたくなかった。
もしかしたら、みゆきからの電話かもしれないと思った。
そう思った瞬間から、呼び出し音がみゆきの鳴き声のように聞こえて、胸が痛くなった。
泣き声が8回鳴ったところで諦めて受話器をとった。
「もしもし?」
「もしもし」
電話の相手は泣いていた。
でも、みゆきではなかった。
「ゆきちゃん?」
「うん」
ゆきは仲良し4人組の中の一人だ。


親が、「助けて、○○○君、助けて、お願い」と言う。
僕は手を握って、「大丈夫。わかってる。大丈夫。」と言う。
今日交わした会話はそれだけだった。
あとは、寝ているか。
嗚咽を繰り返すだけだ。

心拍計を胸につけて、酸素吸入器を口にして、
ベットでぐったりしている姿を、
僕はあとどのくらい見続ければいいのだろうか。

誰かにぎゅっと抱きしめて欲しいと思う。


...




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