死神の微笑み <45> - 2003年04月19日(土) 握手以降のことを思い出そうとすると少女は激しく混乱する。 起こったことは思い出すことができるのだが、順番がめちゃめちゃになってしまっている。 妙に細かいところまで思い出せるかと思えば、1km先のものを見ているかのような不確かな思い出もあった。 思い出せることを、出来るだけ順番に正確に言えば、 ・ランドセルの横にさげていたキーボルダーを川に捨てられた ・「ムカツク」とか「消えろ」と言われた ・泣きながら3人を追って川まで走った ・キーホルダーはみゆきとおそろいだった ・その女子にむかって「殺してやる」と言った ということになる。 断片的で曖昧な動画やカメラのフラッシュのように一瞬だけ見える静止画はあったが、少女はそれを上手く記憶できずにいた。 日常生活の中でふとしたときや、布団の中で眠りにつこうとしているときに、それらの景色はまるで天から降る雨のように少女に降り注ぎ、 それは一瞬の嵐のように少女の中をかきまわして、消えた。 そういうときにだけ、不確かで曖昧で思い出したくない出来事を思い出して、しばらく少女を苦しめていた。 もっとも性質が悪かったのは、不確かで曖昧で思い出したくない出来事の間に、みゆきの笑顔や姿が挿入されている時があったのだ。 みゆきを忘れないように鮮明で幸せに満ちた思い出を思い出そうとすれば、不確かで曖昧な思い出がついてきた。 不確かで曖昧な思い出を忘れようとすると、みゆきのかわいかった笑顔も忘れてしまいそうだった。 少女に「ムカツク」「消えろ」といった女子は一週間後に火事で死んだ。 出火原因は、石油ストーブだと断定されたが、周りは「あなたが殺した」と言いたそうな視線だった。 でも、誰も言わなかった。 -言えば、殺される-とみんなが考えていたからだ。 そして、少女は「死神」と呼ばれるようになった。 少女に弁解する気はなかった。 それに少女はもしかしたら、自分は死神なのかもしれないと思い始めていた。 「みゆきなんていなくなっちゃえばいいのよ。」と言った日、みゆきは事故で死んだ。 「殺してやる」と言った一週間後、あの女子は火事で死んだ。 なにかの偶然なのか? 少女はそれから、何かにとりつかれたように黒い服を身にまとうようになった。 少女は話を終えると同時にオレンジジュースを飲み干した。 そして、ふぅ〜っと大きいため息をついた。 少女は淡々とリズムよく、慎重に言葉を選びながら僕に話してくれた。 僕は目の前で語られる少女の物語をただ呆然と聞いていた。 少女から発せられる言葉には確かにリアリティーがあった。 少女はひとつも嘘を言っていないと信じることが出来た。 それでも、僕の中でそれはリアリティーのある話として消化されなかった。 まるで巧妙に作られた小説のようだった。 ・少女は中学一年の時に両親が別れ、父親と一緒に暮らしている。 ・今、高校には通っていない。 ということを、少女はしばらくして独り言をいうようにつぶやいた。 僕は少女に何か言葉をかけるべきじゃないかと思ったが、自分の感情をうまく言葉にできなかった。 言葉にすると、妙に同情したような言葉になってしまっていた。 ベッドの上で、全身を使って息をしていた。 心拍数が130ほどにまであがっていて、 130というのはマラソンをしているくらいの心拍数らしい。 そんなわけで、きつそうな顔をしている。 血圧を測ったら、上が56下が38だった。 素人の僕でも低すぎることはわかる。 尋常じゃない。 昨夜は薬を使って寝た。 薬さえ飲めば、なんの支障もなく眠ることができる。 今夜はビールがある。 チーカマと柿の種がつまみだ。 明日、サッカーにはいくけど、 その後時間がとれない。 ズボンを買いたかったし、本を買いたかった。 残念だ。 ...
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