死神の微笑み <50> - 2003年04月27日(日) 「違和感」がちょっとわかったような気がした。 「実感」という意味で、少女は僕とダイヤモンドダストを比べたんだと思った。 寒さを体感せずに見られる綺麗なダイヤモンドダスト。 生きていることを実感できずに行き続けている僕。 僕にはずっと実感というものがなかったんだと思った。 生きているいう実感。 生きてきたという実感。 歩いてきた道を振り返ってみたときに、そこに僕が刻んでいたものは何もなかった。 また、今を生きている時間を得られないために、僕は歩き続けなくてはならなった。 一歩足を踏み出すと、その前の足跡はもうすでに色あせいて、 一歩足を踏み出すと、その足は地面から虚しさを感じ取り、 言いようもない不安が僕の体を這い上がってくる。 僕には今、ここにいる実感がない。 しっかり踏み固められてきたはずの大地は、あっという間に崩れ去って、そこには何も残りはしない。 実感の無さが「違和感」となって、僕の中にあり続けたのだ。 少女は-大抵の人々は違和感を感じ続けているのよ-と言った。 そして、-答えは見つかると思う。でも、あなたの望みは叶えられない-とも言った。 そうなのかもしれない。 少女がそう言ったからじゃなくて、答えを見つけた自分自身でそう思う。 大抵の人が感じながら生きているのかもしれない。 この実感の無さを埋めることは、まず不可能なのかもしれない。 だからこそ、歩き続けなくてはならないのだ。 右足を出せば、今度は左足を出さなければならない。 左手を前に振れば、今度は右手を前に振らなければならない。 それが歩くということだ。 今まで歩いてきたのとはまったく違う。 主体的に、能動的に、確実に、一歩一歩踏みしめなくてはいけない。 地面に足をついたときの虚しさを受け入れなくてならない。 振り返ったときの空虚さを乗り越えなくてはならない。 それよりも自分を這い上がってくる不安から目をそむけてはいけない。 すべてを克服する為に歩き続けなくてはならない。 自分の中の違和感と対話をしながら、どこへ歩くべきなのか、今のペースで大丈夫なのか、問い続けなくてはいけない。 きっとそうやって生きていかなくてはいけないのだ。 僕はまた急に少女と会いたくなった。 その後2日間、僕は毎日海岸へ行き、毎日少女といった喫茶店で食事を取り、街中を歩き続けた。 2日間は寒かったが、雪は降らなかった。 建物の隅っこには雪が降った名残が残っていて、なんとなく僕を和ませてくれた。 僕は「もう大丈夫。僕は違和感を認めることができたんだ。」と少女に言いたかった。 でも、会うことは出来なかった。 それはある程度覚悟していたつもりだった。 雪の中で少女の後姿を見たときに-もう会えないかもしれない-とふと思ったからだ。 これ以上少女を探すのは意味がないと思った。 小さな駅の前のロータリーには今日も人の影はなかった。 入り口の前に立って、空を見上げた。 青い空を白い雲がものすごいスピードで動いていく。 白い雲が過ぎ去って、目の前に青い空が見えたときにゆっくりと白い息を吐いた。 来たときとはまったく違う白さだった。 僕の中のネガティブさも空気に溶けていっているのだろうか。 できることなら僕の中のすべてのネガティブさをここの冷たい空気に預けてしまいたいと思った。 笑顔の素敵な駅員は今日は窓口に座っていた。 僕がじっと見ていると、気配に気づいたのか、びくっと上を向き目を大きく開けてびっくりしたような顔を見せた。 TVのコントで見るわざとらしい驚き方に似ていた。 「こんにちは」と声をかけると、「こんにちは」と笑顔で返してきた。 「大阪に帰ります。」 「そうですか。まぁ、ちょっと中にはいってはいって。」 僕はその言葉に従って、事務所の中に入っていった。 もちろんこの前と何も変わらず、真ん中にあるストーブにはやかんが乗っていて、口から白い湯気をだしていた。 そして、味のしないただ熱いだけのお茶をもらい、飲んだ。 ここは何も変わっていなかった。 でも、僕は確実に変わった。 それが今の僕にはわかる。 今まで僕の中にあったものが、違和感としてではなく、そこにあるものとして感じることができる。 僕はこれからまだまだ成長し、感性が磨かれ、成熟していくのだ。 今の僕にはそう思うことができたし、それはきっと間違いないことだった。 「海には行ったの?」と笑顔の素敵な駅員に話しかけられた。 「はい、行ってきました。寒かったですけど。」 「来てよかった?」 「はい。すっきりしました。」 「なにもなかったでしょ?田舎だからね。」 「いいところだと思いますよ。」 「んじゃ、こっちに住む?」 「いや、それは・・・」 暖かいストーブを囲みながら4人で笑った。 しばらくして電車がホームに止まって、僕はそれに乗り込んだ。 笑顔の素敵な駅員がホームまで見送りに来てくれた。 彼は最後まで笑顔を見せてくれた。 窓から見える景色を眺めながら、事務所からでるときに六さんが言ってくれた言葉を思い出していた。 -笑っている時の顔もなかなかよかったぞ- 家に着いた僕は、ベットに倒れ込んだ。 シーツからはいつもの匂いがする。 -帰ってきたんだ- 新潟から帰ってきた。 でも、これがもしバイトから帰ってきたのだとしてもおかしくないんじゃないかとふと思った。 たとえ新潟から帰ってきたとしても、それがバイトだったとしても、家に着いて、ベットに倒れ込むということの中にその違いはないんじゃないかと思えた。 しかし、僕の体はその違いをしっかりと感じることが出来た。 僕の肌は、新潟の空気の冷たさを未だに覚えている。 そして、少女のことを思い出していた。 新大阪駅で見たのは、本当にあの少女だったのだろうか。 笑顔だったのはなぜだろう。 僕へのご褒美なのだろうか。 少女が大阪にいるはずがない。 あれは一体なんだったのだろう。 僕はきっともう少女への想いをを忘れるべきなのだろうと思った。 それはとてもとても悲しいことだったが、少女は自らを触媒として僕を支えてくれたのだ。 僕はそれに応えることができただろうか? 少女と撮ったプリクラを思い出した。 あれはすべて少女がもっていってしまった。 -一枚くらいもらっておけばよかった- 僕はきっと、ずっとあの少女の無表情さを忘れることはないと思った。 もちろん、少女という存在自体も忘れられるわけがなかった。 ただ単に、少女が僕にすべきことはもう何もないし、僕が少女にしてあげられることも何もないのだ。 そして、最後に僕が確信を持って言えることがある。 あの少女は本当に死神だったのだ。 ここまですべて読んでくれた人、ありがとうございました。 そして、読まなかった人、日記じゃなくてごめんなさい。 まぁ、いろいろつっこみたくなるところはあるかと思います。 僕自身も、この作品(特に後半)は首をかしげるところもあるんですけど、 こんなもんじゃないかな・・・。 明日は、あとがきというか解説というかいいわけというか(笑)をさせてもらえればと思います。 前は、作品のことをあれこれ話するのは物書きとしてはダメなんだろうと思っていました。 「いいたいことは文章に書いてあるはず。それ以上言う必要がない。」 でも、最近は違うんです。 それもありかな?と。 ありなことをしたいと思います。 ...
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