読書日記

2003年01月23日(木) 舞城王太郎『熊の場所』(講談社)

舞城王太郎『熊の場所』(講談社 2002年10月15日第1刷発行 1600円205P)
「熊の場所」「バット男」「ピコーン!」
 表題作の中編と「バット男」「ピコーン!」の3作品を収める。
 同級生の鞄から猫のしっぽが飛び出した。それを見た小学校5年生男子の主人公は放課後真っ先に教室を出て、学校を飛び出した。彼はかつて熊と遭遇した父親の記憶をたどり始め・・・、という『熊の場所』は破壊的な筒井康隆風。文章は、石川淳風。
 バットを持って街をうろつく男は弱すぎ。逆に民間人に袋叩きにされたりしているうちに、死んだという噂が・・・。これは『バット男』の話のほんのさわりで、実は孤独な魂のあり方を追究する一種の願望小説。
 最愛の男を失った悲しみを癒すのは直感的にでもなんでも前向きに生きるための「証明書」が必要と、それを求めて一種の探偵として女は男の死の謎を解明しようと疾走感あふれる推理力を働かして現場に乗りだした。ある禁句を際限なく繰り出しておいて最後は割とさわやか系で締まる、やはりこれも筒井康隆風ある意味吉田健一風怪談という気がしないでもない「ピコーン!」だいたいこれは題名からしてまともでない。
 吉田健一または石川淳を想起させる(?)ようなうねる超長文を繰り出してダイナミックな人物と話を語る。三作とも忘れ難い印象を残すがそれぞれ風味が違うのは作者の引き出しが多いからかな。
 今世間で結構な評判の作者の短編集はある意味名人芸に近いストリーテリングを見事証明した。
 ノン・ジャンルのちょっと苦笑も誘う傑作短編集。


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