気まぐれ日記
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2003年07月08日(火) |
「なんだ? ランダー? だれだ」 |
昨日この場でわめいていた小説の主人公の、はまりかけていたときにさらに追い討ちをかけた台詞。無意識の台詞か、著者が狙ったのかは不明。ビデオ借りるぜ、ツタヤで。もし、この台詞にピンときたらメールください。まだこの著者の本、一作しか読んでないですが。(これはまだ全部読んでない)
夏目は出かける準備をしていた。 「後は頼むよ、セリナ」 「はい、いってらっしゃいませ。でも、本当にお一人で?」 「しょうがないさ、今日は井上さんも来るみたいだし。いつものように……お客様用のコーヒーをだしてあげて」 バイトの時と通院の時はセリナを連れて行かない。通院の時はともかく、バイトのとき一度、連れて行ったが、バイト仲間や客に珍しがられてちっとも仕事にならなかった。それ以来は連れて行っていない。買い物の時にだけ、物を覚えさせるために連れて行っているが、セリナの性能……性格だと、全部覚えていないだろう。 「じゃあ、いってくるね」 夏目は玄関を出て、マンションの階段を降りた。ゆっくりと歩いて駅まで向かった。 「や、夏目さん」 「井上さん」 「出かけるのかい?」 「ええ、留守番はセリナに任せているので。どうしたんですか、その花」 「あ、いやこれは……妻の誕生日でね」 井上は紀代に贈るつもりだったが、今日のことを思い出した。自分の結婚記念日だった。妻にどやされずにすみそうだ。 「貴方の家によったらすぐ帰るつもりだったんだけど」 「ああ、そうですか」 「夏目さんはどちらへ?」 「ちょっと、かかりつけの医者の家に。話があるって。セリナに普通のコーヒーを入れるように頼んだので、今日は大丈夫だと思いますよ」 「じゃあ、セリナが待っているんだね」 井上と別れた後、夏目はまっすぐと森の家に向かった。今の時代、医者ほど儲かる職業はない。森もその例に入る。森は自分の家をすでに持っている。もともとは他人の家だが、持ち主が手放したものを買い取ったらしい。 「こんばんは」 「夏目君かい? 今晩は。さ、あがりなさい」 「お邪魔します」 居間はソファーだけの殺風景なものだった。座るように促される。 「さて、何がいい? まずはコーヒー。濃いのを落とそうか」 「ええ」 落とした濃いコーヒーが只で飲めるのは、この森の家だけだった。夏目にとっては。 「あの、先生。話って何ですか?」 「ああ、結婚しようかと思ってね」 「誰と?」 「君と」 「変な冗談はやめてください」 「冗談ではないよ。できない話ではないからね」 「確かに、できなくはないけど。戸籍とかどうするんですか? つーか、その前に俺がいやだ」 「今の時代、借金がなかったらどうにでもなるよ」 「先生、人の話聞かないよね……俺はこれでいたいから」 「そうかい。残念な話だよ。半分冗談だけど」 「半分?」 「そう、半分」 「て、いうことは」 「偽装夫婦だよ。いや何、変な見合い話に困っているんだ」 「他、あたってください」 「薬代まけるよ」 「……」 夏目が、痛いところを突かれたような顔をした。 「夜は長い。ゆっくり考えたまえ」
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