気まぐれ日記
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なんてこった。一週間のうちに三回早番。人がいないとはいえ酷い。疲れた。というか、疲れる。それでも明日には新しい人が入る。もってくれればいいんですが……。
「やあ、部下が失礼しました。多少の無礼はお許しください」 社長を名乗る男は立ち上がって、夏目を招きいれた。 「僕は尾崎。夏目君の話は聞いているよ。あの小さな会社で作っているドールがこれだね」 セリナが夏目の後ろに隠れる。夏目もセリナをかばうようにした。 「そのドールを少し貸してくれないかな」 「いやだといっても……」 「力づくで、ね。嫌な世の中になったね。権利もプライバシーもない。昔騒いでいたなんてうそのようだ」 「セリナをセリナのままで返してくれるんだよな」 「もちろん、それは約束する」 夏目が少し黙った。 「セリナ、起動停止」 「え、トーマ様。それは……」 「そうだ、それでは意味が……」 「いいから、セリナ、起動停止」 セリナが目を閉じて、ばったりと倒れた。マスターの声のみでドールはすべての行動を停止させることができる。平たく言うと電源をオフにした状態である。 「これで、セリナは大丈夫だな」 「君は、大丈夫じゃないよ」 尾崎が静かに言った。 「これが、君の答えだね」 「ああ、そうさ。セリナをいじられるくらいなら、ね」 後は井上のプロテクトを信じて、勝手にプログラムを変えられないようにすればいい。 「わかったよ。ならこちらは少々手荒なことさせてもらうよ」 夏目が身構える前に、尾崎が腕を振り上げた。拳が頬に入る。夏目がよろめいてしりもちをつく。 「女の顔を殴れるなんて、久しぶりだね」 「あんた、本当の女も殴るのか?」 夏目は立ち上がった。たいした痛くはないが、腫れるだろう。 「そうだねえ、僕にはどっちも同じだから。さ、痛い目会いたくなかったらセリナを再起動させるんだ」 「やだ。あんたの思い通りになるのも面白くない」 「ふーん、じゃあ、痛い目を見るかい?」 「痛い目ね。俺はたいがいの痛いのには慣れているから……」 その言葉に尾崎が笑った。いじめがいがあると言って、夏目に向かった。
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