気まぐれ日記
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2003年09月06日(土) |
「フェアリードール」最終回 |
では、お楽しみくださいませ。
それが起きる、数分前、夏目は忘れていたことに会った。クイーンの社員だった。 「ご同行、願います。夏目様」 「あんたらに同行しなければなんないのはなんでだ?」 「貴方は、妖精を取り込んだ。私たちは、その妖精が必要なのです」 「そんなこと、知るか。また大事な妹をお前らにやるわけにはいかない」 夏目ではない、誰かがしゃべった。夏目の意識は押し込まれるように内側に入った。 (先代の王か……) 「お前ら、やり方がせこいんだよ。失せろ」 その声とともに、何かが起きた。目の前の景色ががぐんにゃりと曲がる。 「これで、いい。成功したよルネ。これなら文句ないだろ」 急激に意識が戻った。たとえるなら魂が体にもどったっという感じだろうか。しかし、夏目はすぐに意識が遠くなった。
気づくと、そこは見慣れた病院だった。 目を開き、起き上がる。 「あれ?」 「やあ、夏目さん。久しぶり」 井上だった。 「井上さん?」 「うーん。今日は暑かったしね。最近体の調子悪いんじゃないかい? 森先生の話によると、貧血じゃないかって」 道でぶっ倒れて、それを見た通行人が救急車を呼んだらしい。それでセリナが井上に連絡し、駆けつけたということ。 「すいません。もう大丈夫です」 「なら、いいんだけど。ところで、今日で一週間だけど何か変わったことはないかな」 「変わったこと?」 彼は立ち上がって窓を眺めた。そこには普通の街の景色が広がっている。しかし、透明な何かの景色が重なっていた。 「あ……」 重ね撮りした写真のように街の中に森が、湖が、山々があった。 「もう、変わったことがあったみたいだよ」 「え?」 井上には見えないようだ。夏目はやはり女王を取り込んでいるからか、それが見えた。幻のような小鳥が入ってきて夏目の肩にとまった。 その後、検査により異常はないと言われるとすぐ退院となった。 「ふうん、夏目君には見えるんだね」 森は夏目の話を聞き、街を眺める。 「うん」 「一応眼科にも見てもらうかい」 「他のも見えるかもしれない」 「冗談だよ。少し、うらやましいね」 「何が?」 「貴方は、妖精に選ばれた人間だからね」 それから家に帰り、心配そうにしていたセリナを安心させた。 「これは、記憶です。記憶を投影させたんですね、先代は」 セリナにもその風景を見ることができた。 「トーマ様にも見えるんですね、よかった」 「ねえ、先代の王と今の女王って……」 「兄妹ですよ。それは仲のよい兄妹です」 「そうか……」 だから、妹を悲しませず喜ばせる手段を選んだ。
その後も夏目は平穏に過ごした。相変わらず体は気ままで、相変わらず濃いコーヒーを好む。セリナといえば、たまに失敗している。 前と違うことといえば、たまにドールを見かけると何かが重なって見えた。それは妖精が宿ったドールだった。
終わり
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