2002年07月05日(金)



僕は大学時代を海辺の街で過ごした。
自宅の前から海が見えて
カモメも時折、潮風と共に飛んでくる。
天気が良い時は
講義も自主休講にして
よく浜辺で昼寝をした。
真夜中に眠れなくて
波の音を聴きに行ったこともある。

そんな環境で生活してきた僕には
東京に来てなにがつらいかって
海が見えないことだ。
上京して3ヶ月。
東京の海へは
まだ行った事が無かった。

確かに海は
見ることなく生活しても
さして問題はないけれど
例えば、海を見たいとは思わなくなるような
そういう毎日に慣れてしまうのは
避けるべきなんじゃないかと
そう思ったんだ。
乾いた人間になるのはごめんだ。


だからある日
買い物に出かける予定をなかったことにして
海のある街へと向かう電車に
ひょいと飛び乗ったのは
それは当然の成り行きだっただろう。


どうだろう。
あの開放感といったら。
流れる風景は見たこともない。
乗ったこともない路線で
初めて行く街へと向かう。
そしてそこには海があるのだ。
これ以上にうきうきすることがあるだろうかと
僕は思った。
駅から海への道のりを想像することは
誰にだって楽しいことだ。
行きがけに商店街でもあれば
アイスクリームのひとつもほおばって歩こうか。

そんなこと考えながら
1時間もしたころに着いた街には
君がいました。


元気ですか。
あれを最後に
僕らは会ってはいないし
これからだって会う事はないだろうけど
ちょっとした時、
例えば自動販売機の前で小銭を落とす人を見た時
拾ってあげた小銭を僕の手から受け取る
君の笑顔を思い出す。

僕はただ
目の前に転がってきた硬貨を
拾い上げただけなのだけど
「ありがとう」
と言いながら笑いかけた君の表情に
僕は立ち尽くしてしまった。


元気ですか。
あの時、なぜ君は
どこの誰かも知らない僕と
海を見に行ったのか
今でも、聞いてみたいと思う。
例えば水分を多く含んだ風が吹くと
砂浜についた君の足跡を思い出す。
前を行く白い素足を
まともに見ることが出来なかった。


元気ですか。
僕らは別れ際に
さよならも言わなかったけど
最後まで見とれるほどかわいい笑顔だった君に
僕はなにも言えなかったのだと
気付いていただろうか。
例えば街で
髪の長い女性を見かけると
もしかしたら君ではないかと
目で追ってしまう。


元気ですか。

僕はあの時のように
元気です。

























まぁ、全部嘘ですけどね。

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日記才人