2002年07月12日(金)


その日は雨だった。
ただの雨ではない。
大雨と言ってもよかった。
大粒の雨が
横風にあおられ
僕と外気を隔てる窓にぶつかっては
下方へと流れ消えてゆく
その様子は絶え間なかった。


台風が近づいていた。


オフィスの中は
空調もしっかりと管理され
一定の温度と湿度を保ち
外の気配を毛ほども僕に伝えなかったけど
インターネットのニュースや
携帯で流れてくる情報で
この台風はかなりの猛威を振るっているらしいと分かった。
僕の生まれ育った北海道では
そうそう大きな台風が来ないので
僕は内心わくわくしていたが
定時が過ぎて
オフィスビルから出ようとした時、
その
傘も用を成さない状況に
一体どうしようかと
足を止めたほどだった。


しかしこのまま雨がやむのを待っていても仕方ない。
電車が止まって帰れなくなるのも困る。

僕は意を決して斜めに降る水滴の壁へと。


雨の中、
まず第一に思ったことは
この街の雨は
北の雨とは違って
冷たくはないんだということ。

たまには濡れるのもいいんじゃないかということ。

そして家に帰ってから浴びる
熱いシャワーのこと。


踏み出す度に足元で跳ねる水しぶき。
横を追い越していく車の音。
傘を透かして見える街明かり。


どれもがまるで
行き急いでいるように
いつもより明らかに
早く動いていた。
そう
感じた。




あなたに会ったのはそんな時でした。



お元気ですか。
あなたはスーパーの前で
困った顔で空を見上げていた。
雨の中、
突風に傘を折られてしまった不運な人。


例えば、
通りすがりの人とふと目が合った時。
あの時のあなたの
心細さが伝わってくるような目を思い出す。
僕は思わず
傘を差し出してしまったほどだ。




お元気ですか。
あなたは
とても申し訳なさそうな顔をしながら
僕の傘へと入ってきた。
雨の中、
助けを手に入れた幸運な人。


例えば
買い物袋を抱えて歩いている人を見かけた時、
僕の申し出に
何度もお礼を言いながら
荷物を僕に託した
あなたの細腕を思い出す。
その腕にあの荷物は似つかわしくない。



お元気ですか。
あなたは駅で
僕が見えなくなるまで
改札口に立っていた律儀な人。


例えば
電車の窓を通して
名残惜しそうに別れを惜しむ恋人達を見ると
あなたのはにかむ笑顔と
心に湧き上がる
満足感を思い出す。
あなたに傘を差し出して
本当によかった。





お元気ですか。
僕はあの時と同じように元気です。

わずかな時間だったけど
僕はあなたのその
優しい雰囲気が
とても好きでした。

お元気ですか。

もしまた会うことがあるならば
その時はどうか
雨の中でと
思っています。


























腰の曲がったお婆さんでしたが。

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日記才人