Mother (介護日記)
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水曜日。ごみの収集日。
いつもより早い時間にごみを捨てに行って、黒い縁取りの案内板が出ているのを見つけた。 お葬式があるんだ・・・
その苗字は、このあたりでは珍しい。 老人会の会長を務めた人の家だ。 誰が亡くなったんだろう?
あわてて地元紙をチェックする。 亡くなったのは、なんと老人会の会長のIさん、その本人であった。 今夜がお通夜だと書いてあった。
どうしたんだろう? 前から具合が悪かったのだろうか?
母からは、Iさんには老人会で大変お世話になっていると聞いていた。
母に伝えなくては・・・ 母はなんと言うだろう?
新聞を母の元に持っていった。 「ん?なんか読むもの、ある?」 私は黙って置いて部屋に戻った。
こういう時に口で言うと、母は最初の一言でパニクってしまうので、 自分のペースで文字をたどった方が良いと思った。
しばらくして、嗚咽が聞こえてきた。 「あら、かわいそうに・・・亡くなったの?・・・いい人だったのに」
母はしばらく泣いていた。
「やだねぇ、人はどうして死ぬんだろうねぇ? こないだ、海岸で会ったばかりなのにねぇ」
そうだ、海岸で会ったんだ。 記憶が薄れがちな母が覚えているなんて・・・ いつだったっけ?
母の部屋に行き、母の日記を遡って見た。
すると、4月の23日の散歩中に海岸で会ったことが書いてあった。 私のこの日記にも、翌日、その話が記してあった。
とても朗らかで、しかもダンディーな方だった。
母の話では会員の間の問題を上手に解決し、みんなをまとめていたらしい。 月に一度の『例会』という食事会の席では、カラオケで歌う人が少ないため、 歌いたがりの母には積極的に勧めてくれて、いつも上手だとほめてくれると聞いていた。
去年の母の入院中には、2度、遠い病院までわざわざお見舞いに来てくれた。 先月海岸でお会いした時にも、母の心配をしてくれ、ご自身は元気の様子だったのに・・・
思いがけず、突然にやってくる永遠の別れ。
はかなきもの。
* * * * *
日が落ちて通夜に行くと、 生前の故人の人柄や幅広いお付き合いが偲ばれるように大勢の人が集まっていた。 受付をしていた老人会の方が教えてくれた。
「昨日ゲートボールの大会があってね、みんなで行ったんだけど、そこで心臓麻痺を起こしてね・・・」
それではみんな、さぞかしびっくりしたことだろう。 それまでまったく異常なく普段通りの生活をしていたらしいのだ。
こうして人の死を目前にするたびに、緊張が走る。
いつ、なんてわからない。
母にしたって、家族にしたって、自分にしたって・・・
順番なんてない。
明日のことはわからない。
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