右腕のブレス
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「こんなに優しくしてくれるのに,私は何も返せない」 そう言った彼女。 「そんなの望んでないよ」 そう答えた僕。 僕は彼女に何も求めていたのだろう。
本当に何も求めてないわけではないけれど, 具体的な言葉なんて出てこない。
彼女は具体的な答えを欲しがった。 僕らに答えは出せなかった。
「1ヶ月に1回会わなきゃダメになっちゃう」 そう言っていた彼女。 1ヶ月に1回会わなくても良くなった。 そう僕らはもう会わない。
「遠距離だからダメになったのかな」 そう言った彼女 「近くに居たら違った形になっていただろうね」 そう答えた僕。 もっと早く終わっていたのか, もっと続いていたのか…
確かに障害は多いと思う。 どうやっても会えない時間は沢山あったし, 体力的にも精神的にも金銭的にもきつい部分があった。 僕らは先が見えていなかったから, それを支えあうだけの気持ちの余裕がなかったのだろうね。 僕らは割り切って付き合えるほどクールにはなれないし, 毎日電話したりするほどホットにも慣れなかった。
「4月,5月は本当に仕事やめてのらくの所に行こうと思ってたの。いつ行けばいいのか,どうしたらいいのか分かんないまま時間が過ぎてって,何もかもわからなくなった」 そう彼女は言った。 「知らなかったよ」 そう答えた僕。 軽はずみに「おいでよ」といった言葉。 彼女も冗談で流していた。 そう思っていたのは僕だけで,それはずっと彼女を一人で悩ませていた。
僕に優しいと言ってくれる彼女。 それでも,僕はやっぱり優しくなかったのだろうな。 表面上の優しさだけで,本当に彼女のことを思ってあげられなかった。
「好きかどうか分からなくなった」 そう彼女が言った。 「今でも好きだよ」 そう答えた僕。 僕は頭の中は凄く曖昧なことが多い。 それなのに口に出す言葉は0か1かのデジタルな答えしかいえない。 自分のトラウマ。 曖昧な自分が嫌だから。 そう思われたくないから。 そんな言葉はどんなときでも出てしまう。
僕が彼女にこの曖昧な感情をちゃんと晒すことが今まで出来ていたら,もっと違う未来を歩いていたかもしれない。 だけど,しょせん『かもしれない』なのだろうな。 僕はそんなこと出来ないし。 僕は僕で今はこれで良いと思っている。
それで彼女は満足しているし。 「愛されているまま別れる」 って事で自分を慰めている。
そんな自分に浸って,泣いている彼女を責める事は出来ないし,思う存分浸ってくれ。それを見ている僕は僕でこれで良かったのだと思い込んですべてが終わる。
二人とも自分を守ることで精一杯だった。
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