一瞬だった。 ピアノから、突然 完成体が ざぶんと私を、飲み込んだ。
完成された 音楽家、芸術家とは、こういう方なのだ・・
熟成しきった音。 スコアに書かれた「音譜」は、青い果実で。 今 私を包むこの感覚は、音譜ではなくまさに「音」。 熟成された「海」。
海はまろやかにどこまでも広がる。
音の海の中に 絵が、見える。
ときにそれは、完成体である音をつむぎ出すピアニストであったり しかし瞬間、それは消え
吹き上げられては落ちる噴水のきらめきであったり 風に吹かれるままに揺れ、舞うマロニエの葉であったり 誕生日を祝うキャンドルのゆらめきであったり。
ああ、至福の時よ。
ゆうべの夢は、これだったのだ。 ペリドット色にやわらかく輝く大きな波に、包まれる夢。
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