日記でもなく、手紙でもなく
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2002年12月07日(土) ジャクリーヌ・フランソワの3枚組CD登場

 フランス往年の歌手のCD化再発もかなり進行してはいるが、それでも1940年代から60年代にかけて活躍した人で、数多くの録音を特定のレーベルに残しているものの、そのレーベルからは、せいぜいベスト盤が一枚程度しか出ていないような人がまだ結構いる。男性歌手だと、マルセル・アモンなんかは、一曲だけ入っているというような編集盤はありそうなのだが、アモン一人のベスト盤一枚すらまだ店頭で見かけたことがない。
 女性歌手では、フィリップスにかなりの録音を残し、当時かなり人気のあった人でもあるジャクリーヌ・フランソワなどもその典型。ユニバーサルの前身であるPolyGramから、当時のフィリップスに残した20曲程度が入ったベスト盤が一枚出たきりだった。

 高田馬場にある、イタリア/フランス盤をコアに輸入販売をしている店のF氏と、フランソワがなかなか出てこない――というような話を、既に何度もしていたようなこともあった。フランソワの場合、録音された年代が40〜60年代あたり(最盛期が40〜50年代)で、グレコなどよりも、少し前に活躍した人だったと思うので、ひょっとしたら、デジタル化が結構難しい部分があるのだろうか、残っているテープの録音の質が低下して、リマスタリングに難儀しているのか、などという憶測などをとばしていたこともあった。

 しかし、待っていた甲斐があって、とうとう3枚組CDセットが登場したという電話をもらったのが金曜日のこと。
 ジャクリーヌ・フランソワ、大歌手ピアフなどと比べると、かなり甘口の部類に入るといえば入る。しかし、彼女の歌の上手さ、声のやわらかさ、いわゆる<シャンソン>をオーソドックスに歌いこなし、それがどれも見事な人で、なかなかそういう人はいそうでいない。

 同じフィリップス・レーベルだと、シャンソン女性歌手だと、すぐ思いつくのはジュリエット・グレコで、この人の録音は(単発でも)かなり出たし、Boxセットも出た。ただこの人の場合は、以前にも書いたことがあるかもしれないが、スタジオ録音よりも圧倒的にライブが良いだけに、レコードやCDで聴く気にはなかなかなれないところもある。
 他には、比較的上手い人で、コラ・ヴォケールなども出ているが、ちょっと地味。ダリダはシャンソンというよりポップスという感じだし、バルバラも良いが、好き嫌い分かれるし、イヴェット・ジローも出てこない。
 リーヌ・ルノーあたりだと、確かにフランソワあたりと曲目が重なり、雰囲気もちょっと似たところはあるが、それでも声そのものの魅力は、フランソワには及ばない。

 嫌味がなくて、聴くほどに味もあり、シャンソンというカテゴリーだけではなく、女性ヴォーカル・ファンや、ポップス全般に関心のある人にも本当にお薦めできる――という人が、このジャクリーヌ・フランソワだ。特に、フランソワの曲で一番有名なのが<パリのお嬢さん>というパリ・ワルツの曲。聞けば知らない人は少ない曲の一つであるし、やはりシャンソンの名曲に入ると思う。アコルデオンの演奏だけでも、この曲からフランスやパリを思い浮かべてしまう人も多いのではないか。

 かつて米国でも、この人の盤はLP時代にかなり出ていた。そろそろ10年ほど前になるが、米国の50年代〜60年代のアルバムを扱っている中古店で、フランソワの盤を10種類くらい見た記憶がある。欲しかったものの、欲しい盤で傷の少ない盤は結構高かったし、ちょっと安いと思うと、結構傷が入っていて、買うのに逡巡してしまい、結局その店で1枚だけ米国盤のフランソワを買った記憶が残っている。

 日本では、ちょうどCDが登場してくる頃でも、LPのベスト盤が1枚だけ出ていたように思う。(なお、1958年、1967年、1971年、1980年に来日コンサートが開催されている。)
 それくらいの人であるにもかかわらず、ネットでこの歌手のことを検索しても、(CDに1〜2曲入っている盤のことは出てきても)、歌手本人についての情報が、極めて少ないことにも少し驚いてしまう。

 早速その3枚組を入手し、一番古い時代の録音が収められている盤を聴いてみる。
 実際に聞いてみると、音質が悪いというようなことはさらさらなく、この人の良さがよく伝わってくる。今まで時間をかけたか、技術レベルが上がるのを待って出してきただけあって、マスタリングのレベルもかなり良いのではないかと思われる。
 全部でCD3枚に70曲が入っており、とりあえずこれだけ聴けると、それなりに満足度も高くなってくる。今年出てきたCDの中でも、特にオススメできるベスト5に入りそうだ。


riviera70fm |MAIL