++ワタシノココロ++
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2人で眠るのは、久しぶり。 だけど、昨日は2人とも本当に疲れてて おやすみを言ったかどうかも分からないくらい 布団に入ってすぐ眠りに落ちた。
夜。 やすくんの携帯が鳴る。 やすくんはすぐには起きなかったから、 私が携帯を取って、やすくんの体を揺さぶって起こした。
ほんのわずかな瞬間だけど、 その小さな携帯の画面に映る名前に目がいく。
…あの人だ
携帯のメモリーの 001番に登録されてる、あの人。 昔の写真にやすくんと一緒に写っていたあの人。
気づかないフリしてやすくんに渡す。 電話に出たやすくんはいつもよりぶっきらぼうで、 少し怒ったような感じで話をし、 ほんのわずかな時間で電話を切った。
…今の、だれ?
そう言ってみたいのだが、何だか怖くて聞き出せない。 結局、そのままやすくんは眠りに落ちてた。
夢の中。
真っ暗な中で、やすくんを私とあの人とで引っ張り合いしている。 あの人は、言葉にならないような罵声を浴びせかけながら 引きちぎらんばかりにやすくんを引っ張る。 つかんでいる腕には、血が流れていた。 そんなにまで必死に引っ張る彼女と 苦痛に顔をゆがめるやすくんが 何だかとてもかわいそうで、淋しくなって、 思わず手を離してしまった。
手を離したときの衝撃が妙にリアルで、 声を上げた瞬間、 自分の声で目が覚める。 やすくんも私の様子に気づいてたようで、 しっかりと抱きしめてくれてた。
すぐそばのやすくんの顔を見たら また涙がこぼれてしまった。
「どうした?」 「やすくんをひっぱってたの。 そしたら、痛そうだったの。 だから手はなしちゃったよ」 「大丈夫だよ。ここにいるよ。 ここにいる」
なにがなんだか、その時は本当に分からなくて 何度も「ごめんなさい」って言ったような気がする。 やすくんは、抱きしめてくれたまま 小さな子をあやすように頭を撫でながら 「大丈夫だよ」って言ってくれてた。 私が落ち着くまでずっと。
思い切って聞いてみた。
「夜の電話は、誰からだったの?」
やすくんは、しばらく黙っていたけど、 少し困った顔をして
「何の関係もない人だよ」
って答えた。 これまでにない答え方。それをやすくんに言うと やすくんはもっと困った顔をして、話してくれた。
あの人のことを。
一緒に暮らしてたことを。 今はもう何の関係もないことを。 携帯のメモリも消したいことを。 でも、消せない事情があるということを。 いずれ知れることになるなら、 自分の口で説明したかったことを。
私も言った。 その全部を、知っていた、ってことを。
自分がもっとショックを受けると思った。 やすくんの口から、私以外の誰かの話を聞くことで。
でも。 なんだろ。
「正直に教えてくれてありがとう」
そういうと、今度はやすくんが聞いてきた。
「もしさ、俺が嘘ついて会社の人だって言ったら、 どうしてた?」
「…そうなの、って言うと思うよ」
「ききなら、そう言うだろうなと思った。 でもそしたら、辛い思いさせてたな。 今まで黙っててごめんな」
なんだろ。 やすくんのその言葉を聞いたら、 嬉しくて涙が出てきた。
涙が。
あふれた。
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