++ワタシノココロ++
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今日から、やすくんはまたお泊まり。2泊。 今度帰ってくるときは、引っ越しの日なのでそれまでに 荷物をしっかりまとめて置かなきゃ、と思うけど 気ばかり焦ってぜんぜん手が動かない。
ここに来て一度も使わなかったモノとか、 着なかった服はこの際処分することに決定。 10ヶ月しか住んでいないのに、異様にモノが増えちゃってる。 貰い物がメインだけど、これは全部リサイクルに回そう。
クローゼットの奥から、黒いセカンドバックが出てきた。 確か、荷物を入れるときにやすくんが「これは大切だから」といって わざわざ奥へ片づけていた物だったはず。 何気なく中をチェックすると、チラッと見える手紙らしきもの。
私からの手紙、それにはがき。
まだ別々に暮らしていた頃、私はよくやすくんに手紙を書いた。 と言っても、実際に投函したのは少なくて 私のアパートに遊びに来たやすくんに鍵を渡すための ダミーの手紙が多い。 当時やすくんに合い鍵を渡していなかったので 遊びに来てくれるときは、鍵をおいて行かなきゃだめだった。 だけど、そのままおいておくのは怖いし、 かといって隠すところもないし、と、茶封筒で私宛の手紙を自作して その中に鍵を入れておいておいた。 ま、プロからしたら大したことにない工作だったろうけど。 ただ鍵だけを入れるのもつまらないから 毎回ちょっとした手紙を入れていた。
「この前何となく『来れないかも』と思って 使い古しの封筒に鍵を入れておいたら やっぱり来れなくなってしまったから 今日は、ちゃんと新しい封筒に入れておきます。 これで、絶対会えるって、ちょっとしたおまじない」
台風が直撃して、やすくんが来れなかったコトがあった。 その次に遊びに来る時に書いた手紙。 私が間違いなく書いたものだけど、ちょっと恥ずかしい。 でも、思わず次から次へと開いて読んでしまう。
なかなか会えなかった頃の私は やすくんに会える時間がとっても大切で 刻々と近づいてくるその瞬間を ドキドキしながら待ち望んでいたんだなあって 改めて思った。 毎日顔を合わせるのが当たり前の今、 忘れかけていた気持ち。
わずか数年前の自分の手紙なのに なんだか、そのころの私をすごくかわいいと思った。
最後の1通。 私が初めてやすくんの住んでいた街へ行くとき 東京駅で、電車を待ってるときに書いたもの。 つき合うことになって初めて会う、その直前に書いたもの。
「これから、そっちに行こうとしている自分が なんだか信じられないよ。何が、ってきかれるとそれはそれで困るんだけど 自分がここにいることが、楽しみなような不安な感じです。 これから何が待ってるかわかりませんが、とにかく楽しんできたいなあ」
自分がそのときに置かれてる状況が自分自身信じられなくて やすくんのことも自分の気持ちも、 まだよくわかっていなかった頃の正直なコトバ。
やすくんから電話がかかってきた。 引っ越しのいろいろについての連絡だった。 「あのさ、なんか変な物見つけた」 自分からの手紙、なんて照れくさくて言えなくて そんな風にやすくんに言う。
「なになに?」ちょっと焦った風にやすくんが聞く。
「手紙。黒いセカンドバッグに入ってたやつ。これ、どうする?」 照れ隠しでついぶっきらぼうに聞いてしまう。
ほんの少し、電話の向こうで沈黙があって その次に 「それは、僕の宝物なので、捨てないで大切にとっておいてください」 と、ちょっと照れた様子でやすくんが言った。
恥ずかしいけど、捨てられないよ。これは。 私にとってもタカラモノだから。 不安ととまどいと、それにちょっぴりの希望がつまった 私の大切なきもちだからさ。
ふふ。じゃ、やすくんに内緒で 私がもらった手紙も、ここに入れておこうかな。
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