++ワタシノココロ++
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今日、やすくんはお休み。 いろいろ予定が入っていて、ゆっくりする時間はないと思っていたけど 昼頃の3時間、自由に使える時間ができた。 前から行こうと思っていた鰻屋さんへ行く。 場所も店の名前も完全に忘れてしまったのに 「確かあっちの方の住所だった」という漠然とした記憶だけをたどって 細い道を進んでいった。
どんどん山奥に入っていって、本当にこの奥に目当ての店があるのか不安になったとき、 急に周りの景色が開けて、ひなびた町並みが見えた。
偶然にも順調に鰻屋さんに到着。
座敷に上げてもらって、のんびり出てくるのを待つ。 美味しい鰻屋さんは時間がかかるの分かってるんだけど 階下から漂う、美味しそうなにおいが辛い。 炭のにおいと、たれの香ばしいにおい。
嗅覚だけがどんどん鋭くなっていくみたい。 ふと気づくと、 目の前に座っているやすくんも 私と同じように鼻をくんくんさせてうっとりしている。
私が見ているのに気づいたやすくんが
「だって、いい匂いだからさあ。お腹空きすぎたよ」
と、恥ずかしそうに笑った。
どのくらい待っただろうか。 隣の部屋に料理が運び込まれる音がした。
障子越しに漂ってくる、よりはっきりとしたいい匂い。 美味しそうに焼けてるその中身まではっきり見えそうなほどだ。
「美味しそう・・・」 思わず声が出る。体もむずむずしてくる。
ふと、 やすくんが
「隣に聞こえるよ。」
ってにやりと笑った。私は
「だっていい匂いなんだもん。もう待ちきれないよ」
と、恥ずかしくて照れながら小さな声で答えた。
ようやく運び込まれた鰻を前に 私たちは、ほとんど会話もせずに 半分以上を食べた。
そして、ふと気づいて
二人で恥ずかしそうに笑いながら 「来てよかった」 と言った。
無駄なおしゃべりはいらなかった。
二人でここに来て、もぞもぞしながら待って 一緒に美味しい物を食べられたことが
何より嬉しかった。
「またこようね」
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