鼻くそ駄文日記
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2003年08月17日(日) |
まだあるぞ!夏休み企画2 |
ということで、今週は小説です。
『記念日』
悪い予感に身構えて食卓に入る。 父親は、株価の下降を伝えるニュースを見つめている。その父親を無言で見ている妹、母親は生ゴミ処理のため勝手口のドアを開けたまま外へ出ている。 いつもなら、まだ父親を毛嫌いしていない妹が調子のいいことを言って父親を上機嫌にさせるはずなのに、ただならぬ空気だ。親子が沈黙している。 「やっと、弘晃が下りてきたようね。じゃあ、はじめましょうか。和美ちゃん、お父さんのビールを冷蔵庫から出してくれる?」 母親がひとりだけ、いやにはしゃいでいる。 「うん」 にこりとも笑わず、妹はテーブルを離れ冷蔵庫からビールを運ぶ。髪が乾いていない父親の前に置いた。 父親はユーロのダウ平均を食い入るように見ている。妹がビールを置いても無視だ。 「お父さん、栓、空けるよ」 「ああ」 父親は目線をテレビから逸らさず、空のコップを持った。 妹は栓を抜き、義務的にコップにビールを注ぐ。 「お父さんにビールついであげた? それじゃあ、はじめましょうかね」 母親はエプロンで手を拭きながら、椅子に座る。 茶碗を持って、炊飯器を空ける。 瞬間、ぼくは今日の意味をつかんだ。 炊飯器の中には小豆にまみれた真っ赤な赤飯が入っていた。 「はい、じゃあ、まずは和美ちゃんね。おめでとう」 母親は嬉しそうに妹に茶碗を渡す。母親なみに脳天気な妹なのだが、今日はほとんど喋らない。 「うん」 「お父さんもテレビばかり見てないでね」 「ああ」 母親は父親に茶碗を渡す。父親はふるえる手で、ビールの横にそれを置いた。 「弘晃は久しぶりでしょ。家族団らんでご飯を食べるの?」 母親はぼくの茶碗にも赤飯をついだ。おかずは豚カツだ。豚カツを赤飯で喰うのか? 「じゃあ、食べましょうか。ほら、お父さん、テレビばかり見てないで。何か言ってあげなさいよ」 父親は困った顔をしてぼくを見た。 「まあ、めでたい日だな」 ぼそぼそと言って、コップを持つ。 「そうだ、乾杯しましょうよ。あなたたちもコップに麦茶をついでるね。せっかくだから乾杯しましょう」 母親は父親のコップを見るなり言った。 ぼくは渋々、コップを抱える。 妹はコップに軽く手を添えただけだった。 「和美も大人になりました。おめでとう。乾杯!」 母親は無理矢理に父親のコップに自分のコップをぶつけた。それからおめでとうと言いながら妹のコップにコップをぶつける。 ぼくは母親がコップを持ってくる前に、口をつけた。 「こら、弘晃、ちゃんとお祝いしてあげなさい。ほらほら、和美のコップと乾杯して」 困惑している妹を見て、軽くコップをぶつける。 こつん、とみじめな音がした。 父親はまたテレビを見つめている。 「お父さんも和美と乾杯しなさいよ」 母親に言われて、父親もコップを妹にぶつける。 妹も父親も目を合わせない。 ぼくは無言で豚カツを口に運ぶ。 それから、その赤飯へ。 べとべとしていて甘い赤飯は、予想以上にまずかった。
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