鼻くそ駄文日記
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ということで小説なのよねん。 明日も学校休み。 夜更かしで読もう。
『謎の悪臭』
体育の授業のあとだった。 更衣室で美樹子はタマネギが腐ったような臭いを感じた。 「ねえ、ちょっとくさくない?」 和美は鼻で強く息を吸った。 湿ったコンクリートの臭いしかしない。特別、くさくはない。 「そう?」 「いや、くさいって」 「そうかなあ」 和美は鼻に神経を集中する。首を左右に大きく動かして臭いの原因を探した。 美樹子の近くで臭いを嗅ぐ。和美の額に皺が寄る。つんとした汗くささが鼻に残った。 だが、それを悟られないように和美は顔を戻す。 「別に何も臭わないよ」 言ってから、和美は笑った。 「嘘だあ。いまもくさいよ」 美樹子は不服そうに言った。 「美樹子は臭いに敏感なのかもね」 更衣室を出てからも、美樹子の「くさくない?」は続いた。 体育館、校舎の廊下、教室、どこへ行ってもここはくさい、あそこもくさいと美樹子は言う。 和美はそのたびに「くさくないよ」と言って笑った。 教室では授業が始まっていた。 小学校だから、体育を教えてくれた担任の杉下先生がそのまま理科の授業もやる。 杉下先生が教室に入ってくると、教室は異臭に包まれた。 杉下先生は理科室から持ってきた二つのビーカーを得意げに見せる。 男子児童たちは、くせーっと言ってはしゃいでいる。 「あはは、くさいだろ。これは塩酸という液体だ。そしてこれが石灰石だ。この二つを混ぜるとどうなるか、わかる子はいるか?」 「はい」 三人ぐらい勉強のできる児童が手を挙げる。もちろん、美樹子は手を挙げていて、和美は手を挙げない。 「じゃあ、美樹子」 「二酸化炭素ができます」 おおーっ、さすが美樹子かしこい、と男子から声があがる。 「そうだな、じゃあ実際に二酸化炭素を作ってみよう。やりたい子は?」 おれ、おれ、おれ、男子が先を争うようにして手を挙げる。 「さっきからくさいって言ってたの、これじゃなかったの?」 臭いのもとを知っている和美は、気休めに言った。 「ううん、塩酸の臭いじゃないよ。いまでも、塩酸とは別の臭いがしてるもん」 美樹子は臭いの原因が自分とも知らずに、おどけて鼻をつまんだ。 杉下先生は、男子を説得しながら実験を行う児童を割り当てている。
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