鼻くそ駄文日記
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2003年08月20日(水) ナツナツナツ夏休み企画5

夏休み、ひましてんだろ。
小説でも読みなよ。

  『女の子』


 普段、ぼくはクラスの女の子とは話をしない。
 教室にいるときにはまあ、話しかけることがあるけど、それも用事のあるときに限られる。学校内でも教室の外ならば知らん振りをしている。
 学校外ならなおさらだ。
 コンビニで会おうと、自転車ですれ違おうと、同じクラスの奴なのか確かめるために顔をじろーっと見るが、話しかけはしない。特別用事がないからだ。
 顔を知っていて誰だかわかって、向こうも誰だかわかるのに、話しかけない。
 こっちがじろーっと見ているということは、向こうもじろーっとこっちを見ているわけで、たまに目が合うこともあるけれど、それでも話しかけない。
 これは大変気まずいものだ。
 だから、ぼくはコンビニに行く場合は、まず中にいる客に同じクラスの女子がいないか、確かめるのが習慣になっていた。自転車をこいでいて、前方から同じクラスの女子が来て、思わず進路を変えたこともある。
 あの日もぼくは、コンビニに同じクラスの女子がいないか、きちんと確認して中に入った。日曜日の午後三時、母親と妹が買い物に出かけていたため、家にはぼくと父親しかいなかった。昼に母親が置いていった煮物と、ぼくが温めなおしたみそ汁でご飯を食べていたが、三時頃になり小腹が空いた。ビールを片手に競馬中継を見ていた父親は、第一〇レースを取ったため、機嫌がよかった。ぼくは父親から千円札一枚をありがたく頂戴し、コンビニへ出かけた。
 パンを買おうか、おにぎりを買おうか、おでんもいいかもしれない。
 そんなことを考えながら、ぼくは雑誌コーナーでテレビブロスを読んでいた。
 四月に始まったばかりのドラマの紹介記事を途中まで読みかかったところで、左肩をぽん、ぽんと二回叩かれた。
「何、読んでるの?」
 振り返ると、そこには真沙美がいた。
 見慣れている制服ではなく、私服だった。白いブラウスに紺色のカーディガン、茶色のスカートを履いた真沙美は、制服の真沙美よりもぐっと大人びて見えた。
「ちょっと、小腹が空いたんで」
「お腹が減ったのに本読むなんて、へんなの」
 真沙美は、薄く口紅を塗った唇で笑った。
「真沙美こそ、どうしたの?」
 ぼくは喋りながら、鼻で何度も息を吸う。激しく動く心臓にあわせて、平常時には静かな血管が脈を打つ。
「あたしもおやつタイムだよ」
 ぼくはスタンドにテレビブロスを戻した。手が震えて、うまく元あった位置に戻らない。表紙とカラーグラビアの角が曲がった。
 店員を一瞥して、お菓子を選ぶ。チョコレートがコーティングされているコーンスナック、板チョコ。ぼくは真沙美の好きそうなものばかり選んでいた。アイスまで、チョコレート味を買ってしまった。
「よかったら、一緒に食べない?」
 自転車に乗って、帰ろうとしていたときに真沙美は言った。
「いいね」
 即答だった。
 真沙美とまだ一緒にいられる。そのことがひたすらに嬉しかった。


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