友人NO氏と晩御飯。この日のために、あらかじめ親父を預ける予定を入れ晩御飯に行った。
彼はこの春から東京に栄転する。一般的に言う「出世」であり、おそらく今後京都に帰ってくることはないだろうと思う。是非彼には日本のために偉くなってほしいと願う。てめえとは違って。
そんなわけで、東京に行く前に是非晩御飯を食べようと言う話になったのだが、彼の希望でスッポン料理を食べに行くことになった。その店には彼は以前に食べに行ったことがあり、そしてとんでもなく旨かったらしい。
事前に予約して店に向かった。まずはビールで乾杯し、日本酒でスッポンを頂いた。刺身から始まりまる鍋、そして雑炊まで本当に堪能しました。
飲み物メニューの中に「にがたま酒」と言うのがあった。これなんですか? と訪ねたところ、スッポンの胆嚢を焼酎に漬け込んだ酒で、苦すぎておすすめしません笑と言われた。「正直、罰ゲームレベルですわ」と店の主人は笑って言った。
雑炊を食べ終わる頃、彼は言った。「アレ、行ってみませんか?」と。そう、アレと言えば罰ゲームレベルの酒しかないわけで、さっそく注文。店の方も「まじですか! 行っときますか!」などと言いながら嬉々としてお酒を運んでくる。
お酒の見た目は真っ黒で、中には本物のすっぽんの胆嚢が一つ沈んでいる。胆嚢は絶対に噛んだらあきまへんえ、そのままごくりと飲み込んでおくれやす、と語ったお店の方の京都弁は、やたらと生々しく感じた。
さっそく彼から飲む。と言うより舐める。苦っ、と彼は顔を顰めた。確かにこれは罰ゲームやわと彼は笑う。次はもちろんてめえの番で、ちみりと口に含むと確かに苦いが思ったほどではないか。こちらが構えすぎたきらいはあるだろう。
これ飲んだら二日酔いしまへんのえ。朝も目覚ましより早く起きて、体が朝からぽかぽかですわ、と店の方は笑った。
さて胆嚢だけ残ってしまった。これはもちろんてめえに行けということなので、躊躇わずてめえは胆嚢を口に含んだ。絶対に噛んだらあきまへんえ! と言う店の方の期待通り、てめえはそれをがりりと噛んだ。
最後のデザートも頂き、店の前まで丁寧に送って頂き、とてもいい気分で二人京の街を歩いた。
とてもいい気分だったのはほんの少しだった。店を出て数歩、突然の嘔気がてめえを襲い、我慢する間もなくてめえは嘔吐した。道端の排水溝に、震えるはらわたからありったけの内容物を吐瀉した。
正直恥ずかしくて涙が出た。腸炎以外で、食事後に嘔吐するなんて何年振りだろうか。酒飲みとして最も恥ずべき行為とは認識していたが、生理現象としては止まらない。胃の中が空っぽになるまでてめえは憚ることなく吐き続けた。
気が付くと、友人がてめえにタオルを差し出していた。なんということでしょう。てめえがまるでこうなることを予想していたかのように、タオルが差し出されたのだ。何でそんなものを持っているのか、とてめえは尋ねたが、私にもわかりませんが、なぜかかばんの中に入っていましたと彼は言った。
てめえの嘔吐が落ち着いてから、二人で再び京の街を歩いた。
「胆嚢じゃないですかね」と、突然彼は言った。同じものを食べて片方だけ嘔吐すると言うことは。食べた物の違いと言えば。
なるほど、そうかもしれんね。きっとてめえのはらわたは、スッポンの胆嚢を拒否したんだろうね。吐くだけ吐いてすっきりしたてめえはそう言って笑った。
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