解放区

2014年05月07日(水) 花埋み

渡辺淳一氏が亡くなったそうだ。医師出身の作家として、ある意味尊敬していただけに残念なニュースだった。どうでもよいが、医師出身で直木賞を取った作家は彼だけだったはずだ。


初めて出会った彼の作品は「花埋み」だった。日本で初めて女医となった荻野吟子の伝記である。10代の時に見合いで結婚した相手から淋病を伝染され、それが原因となり離縁されたことをきっかけに、彼女は医師を志した。詳細はwikipediaに詳しいのでここには書かない。


高校生の時。同じクラスに、ちょっと仲のいい女性がいた。てめえとはウマが合うようで、休み時間などにいろいろ話することがあった。とても頭のいい人だった。てめえのいた高校では1、2を争うレベルだった。

何の話からそうなったのかは全く覚えていないが、ある日彼女は「花埋み」をてめえに貸してくれた。とてもいい本だから読んでほしい、そして感想を聞かせてほしいと。

アホに囲まれて育ったてめえは人から本を貸されるような経験はなかったので、自分なりにまじめに、そして、とても興味深く読んだ。その時は文章の素晴らしさとか全く分かっておらず、その内容に感動したことを語った。

てめえの話を聞いていた彼女は、聞き終わると真面目な顔になり「この本を読んで、決めた。私は医師になる」と言った。医師なんて病院に行ってしか会えない存在で、目指している人すら出会ったことのないてめえは非常に驚いたことをよく覚えている。

それは、ぜひ頑張ってね、てめえが病気になったら診てね、などとてめえは適当なことを言った。彼女はにっこりと笑って、ありがとう頑張るわ、ところで君は、いつも飲み物を飲むときには小指を立ててるね。と小さく笑って踵を返した。

てめえも若かった。小指を立てている意識はなかった。小指なんか立ててるか? などと不思議に思い、家に帰って母に聞いた。今日クラスの友達に、飲み物を飲むときに小指立ててるって言われたけど。昔からそうだっけ?

母は笑って言った。それ言うたん女の子やろ。その子、あんたのこと好きなんやで。

適当なことを言うなや、小指を立ててるのかどうか聞いたんや、てめえも相手もそんな気持ちはないで、とてめえは顔を真っ赤にして足掻いた。いやそんなことないで、女はな、好きな男の仕草が気になってしゃあないもんや、どうでもいい男の仕草なんてどうでもいいんや、と母は言った。

てめえは若かった。そんな女心を全く理解できずにてめえの青春は終わった。

ちなみに彼女は医学部を受験して、残念なことに玉砕したそうだ。女は浪人させないという家庭の事情もあり、彼女は別の進路を選んだそうだ。そして、現在どうしているのかは残念ながら全く知らない。

そしてそんな気の全くなかったてめえは、紆余曲折を経てどういう縁かてめえの高校の卒業生としては初めての医師になった。「花埋み」が縁になったのか? そんなことはないと思うけど、渡辺氏の逝去のニュースを聞いて少し感傷的になった。


追加。母の言うとおり、確かに、物好きなことにてめえのことを愛してくれる人は仕草を指摘するのです。小指を立てるとか、てめえが傾いているとか。笑 

指を立てるのも傾いているのも全く自分では気が付かないんですね。まあ、男ってそんなもんだよな。しかしそう言われることで愛を感じるくらいには成長したと思うし、今後はその想いに応えられたらいいなと思う。


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い・よんひー [MAIL]

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