夢見が悪かったおかげで、 眠りに執着することもなく、 起きる事ができた。
それでも、 「かったるいな、もうちょっと寝かせてよ」 というフリをしながら、 30分の惰眠に酔いしれた後に起床。
ダンナの肴であるピーナッツをかじりながら、 お湯を沸かしてアールグレイをいれる。
予想以上に冷え切っていた体が、 芯から活動し始めるのを感じた後、 フロに入り歯磨きも洗顔も済ませた。
テレビをつけると気だるくなるので、 猫に話し掛けながら身支度を整える。
窓を開けて気温を肌で感じ、 適当な洋服を身につけ、 久しぶりに長時間独りぼっちになる彼女に、 ありったけの愛撫をして鍵を閉めた。
家を出てしまえば、 頭痛や倦怠感や貧血などの、 不定愁訴症候群も多少おさまる。
こんなにも日々怠慢なのに、 まだ身体は私を過保護にしようとするのだ。
数ヶ月ぶりに一人で乗る地下鉄。
車窓に映る自分の顔が、 思ったよりも世間なれしていて、 ひとにぎりの自信をもらう。
新橋はほとんど変わっていなくて、 銀座口の汐留に建設されている高層ビルが、 随分と高くまでできあがっていたのを除くと、 相変わらず薄汚い街だ。
今の私にはそれが親しみやすい。
会社に11時に到着。
神出鬼没な私にさほど驚いた様子もなく、 「手伝いにきたの?」と数人が声をかけてくれた。
今日から数日間の伝票入力アルバイト。
これは不定期で社長から頼まれる仕事である。
いつもなら自分が空けた穴のせいで、 人手が足りなくなっているのにも関わらず、 気が進まなくて5日ぐらい出社しては、 面倒くさくなって自然消滅で辞めてしまう。
でも今回ばかりは声を掛けてもらえて嬉しかった。 こんな私でも役に立てることが嬉しかった。
時期が時期だ。 社長を釈迦だとは思いたくないけれど、 天から蜘蛛の糸が降りてきたように思えた。
ちょうどいい。 練習をしよう。 社会に適応する練習。
昼食も摂り友人と歓談もし、 眠気を抑えながらキーボードを叩く。
人間らしい生活。
今の私が求めていたものは、 お金だけじゃなくて、 自由な時間だけでもなくて、
人から必要とされることだったんだ。
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