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伊藤元重著『流通は進化する〜日本経済の明日を読む〜』(中公新書)読了。 流通の時事的な側面に触れつつも概略を述べている本というのは結構出版されていて、たとえば今年読んだものの中にも『流通激震!』(日本実業出版社)という本があったし、懐かしいところではやっぱり中公新書の『顧客社会』も同じような路線の本だった。 この本の場合は、流通を見れば経済がわかるという前提に立ち、四つの側面「流通の歴史(時間軸)」「都市部と郊外」「縦の流れ(メーカー、問屋、小売)」そして「技術革新(インターネット)」から現状認識を行っている。 非常に読みやすい文章で、納得できる例示も多く、理解しやすい内容。あとがきで「新書ということもあり、単行本として出された前の二冊よりは、長期間読んでもらえるような内容になるように意識した。」と書かれている通り、原理原則的な内容が多数織り込まれていて、流通について知りたいという向きには面白いんじゃないかと思う。
興味深い点は多数あったのだけれど、ひとつを挙げるとしたら、以下の部分。 トイザらスがある市に出店を表明するという噂があったときに、地元の玩具店の経営者がテレビのインタビューに答えたときの内容と、それをテレビで見ていた著者の教えている学生の意見の部分。 以下引用です(……部分省略)。
「イギリスを見てごらんなさい。トイザらスが出てきて、イギリスの玩具店の半分以上が潰れてしまった。だから、(……)の玩具店も半分ぐらい潰れるだろう。自分たちは何も悪いことはしていない。地元の消費者のために一生懸命、いままで商売してきて、誠実にこれまでやってきたのに、大資本の論理でトイザらスが出てくると、こちらは勝てるはずがない。トイザらスのほうが、大きな駐車場があるし、品揃えはいいし、値段は安い。こんな理不尽なことが許されていいだろうか」
「先生、あの理屈はおかしいですね。もしトイザらスが出てこなければ、あの地元の玩具店は非常に高い、品揃えの悪い商品を、駐車場もないような不便な店で地元の消費者に押しつけて、消費者から搾取して生き残れるということをいっているようですね」
その部分で問題となっているのは、消費者の立場から流通業の姿を考えたときに、旧来の流通業でいいのかどうかということなのだけれど、大資本ばかりを優遇して既存の中小企業ないがしろにするわけにはいかないから、どうしたって緩やかでなだらかな変化をたどらざるを得ないところが難しい部分なんだと思う。
ただ、日本の流通がこれから2005年くらいまでの間にさらなる激震のなかに放り込まれてしまうということだけはほぼ間違いのないことで、そのときもいまと同じようなスピードの変化しかできないようであれば国際競争の中では「負け組」に入ってしまうはずだ。もちろん、それは避けたいことだけれど、「負け組」にならないためには、その過程で厳しい部分(大規模の倒産とか失業とか)というのは出てこざるを得ないような気がする。もちろん、最後に残っているのは「消費者の立場」というのをよりつきつめている企業になってくるとは思うのだけれど。 日本の場合は、系列問屋やリベートなど、本書で「暗黒大陸」という形容がされているように、流通業の仕組み、システム化に関してはまだまだこれからの部分が多い。だからこそ、たとえばユニクロのようなチェーンメリットを最大限に活かすことができるようなシステムを構築することが一人勝ちに繋がってくるのだろうし(最近発表した出店数の下方修正で株価が下がってはいるけれど、圧倒的に強いことには変わりがない)。そして、そういう企業が増えていかなければならないのだろうし。
状況的な部分で言えば、幕張地区にはカルフールやコストコと言った世界の小売業ランキング(※1)のなかでも上位に属している企業が進出しているし、雑誌なんかでは世界No.1流通業「Wal-Mart」がついに来年上陸するといった噂めいたものが書かれていたりもする。外資系流通業っていまはまだ少数派でしかないけれど、数の論理で短期間に市場を席巻するということも決して不可能なことではないのだ。そうなったときには、いくら小売業がドメスティックな産業ではあるにしても、従来の企業が将来を保証されるわけではないから、本格的な競争時代に突入するのかなと考えてしまう(聞くところによると、「カルフール」はあんまりお客が入っていないようだけれど)。
僕は流通業に従事しているし、ずっと興味があったから大学3年生のときからずっと「日経流通新聞」をとってもいたのだけれど、当時に成長企業と呼ばれていた企業でいま現在まったく鳴かず飛ばずのところも多く、また当時は全然無名だったのに、一躍時の企業になってしまったところも多い。いずれにしても、それだけ変化が激しい業界なんだなとは実感する。その激しさが国内だけのものから、ようやく国際的なものへと変化するだけのことなのかもしれないけれど。 もちろん、変化の激しい業界であるということ自体は、とても楽しいことではあるのだけれど。
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※1:世界小売業ランキング(1998年)では、売上高ではカルフール第8位(304億ドル)、コストコ第20位(238億ドル)、ダイエー第21位(221億ドル)。第1位のウォルマートにいたっては、1376億ドルにも及ぶ(←半端じゃない)。 『グローバル・リテイラー』東洋経済新報社より。
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