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2001年10月10日(水) think 【Holiday】+『ハードボイルド/ハードラック』

 基本的には平日が休日の職業を選んだことは自分的にナイスな選択だと思っていて、いまは部署の仕事の都合上土日が休日にはなってはいるけれど、だから困るのは休日の日にどこに行っても混んでいることだ。
 平日は気楽だ。とりわけ午前中や午後の早い時間はよりらくちんだ。
 学校帰りの学生たちや会社帰りの人たちが立ち現れる前の時間、もちろん街はそれなりに混みあってはいるけれど、繁忙時と比べると空気の中にたくさんの隙間があいているような気がする。歩くのにも都合がいいし(僕は歩くのがとても早い)、何かを選ぶにしても比較的ゆっくりと選ぶことができる。
 世の中の多くの会社が土日に休日をもってきていることもあって、土日にはありとあらゆる施設が致命的に混みあってしまう。話題作を上映する映画館は立ち見がでるくらいに溢れてしまうし、デパートの中はたくさんの荷物を持った人でいっぱいになり、電車の中もなかなかに座ることなんかできない。人気のある飲食店はお昼時には店外にずらりと人が並んでいて驚いてしまうくらいだ(待つための椅子だってたくさん用意されているのに、それにも座れないくらい並んでいる)。
 もちろん、誰かと遊んだりするときには休日のほうが便利ではあるけれど、関東での友人の多くは会社で知り合った人だから、もちろんそれだって平日の方が都合がいいのだ。

 休日の前の晩にたとえば外でゴハンを食べていて、「明日休日なんだよねー」とか言っているのはすごく幸せな気分になる。
 もともと普段から夜更かしな方だけれど、休日の前にはさらに深夜(場合によっては早朝)まで起きていることが多いし。
 たまには、夜を徹して高くなってしまったテンションをしずめるために、眠る前に早朝の散歩に出ることもあって、そんなときには男でよかったよなとか思う(女の人なら多くの場合危ないので午前5時とかには出歩けないから)。そして、いつかこういうくるった生活リズムの所作でもある貫徹後の早朝の散歩がものすごく早起きしての早朝の散歩、に自然にスムーズに移行していくことができたら成長したってことなんだろうなと勝手に思っていたりする。

 予定のない休日の、何時に起きてもいいんだという気楽さもまたたのしい。
 起きて、そのまましばらくベッドのなかでぼんやりして、リモコン操作だけで好きな音楽を聴いて。
 カーテンをちょっとめくって。
 曇り空が好きなのだ。だから『ホリー・ガーデン』の考え方で言うと怠け者ということになる。
 休日なんだからなんだってありだよとか思う。
 時間はたっぷりあるわけではないけれど、休日の午前中には「まだまだ時間がたっぷりあるような錯覚」に陥ることはできるのだ。
 休日の夕方過ぎには、「もう時間が全然ないよ、うわあ! というような錯覚」に陥ったりもするけれど。
 
 平日は、朝テレビをつけても普段どおりの番組をやっているし(テレビはほとんど見ないのだけれど)、だから主婦向けの情報なんか番組をたまにつけてみると、まだ小学生だった頃の夏休みのときの気持ちが思い出されたりする。ヤックンを見て、フックンはどこに行ったんだろうとか考えたり(モックンは俳優だってわかるのに)。そのまま笑っていいともを見て、1時からはじまるお昼のドラマをみようとか思ったり(あのやたら家族がたくさんいるドラマはまだやっているのかなとか思ったり)。
 買物に行ってもどこかのんびりしたようなイメージがあるような気がしてしまう。
 もちろん、それは僕自身の心持によるところが大きいのだとも思うのだけれど、店内を歩いているのでもなんだか自分が本来いてはいけない時間にそういう場所にいるような気がしてしまうし。

 雨が降っていても別にいい。たとえば今日みたいな冷たい雨が一日中降りつづけるのでも同じ(まあ、今日は少々降り過ぎだけれど)。基本的にはインドアだし、好きなことの多くは一人ですることなんだし。
 文章を書いていたり、本を読んでいたり、音楽を聴いていたり、飽きたらお茶とかコーヒーを飲んだり、ときには傘を持って散歩に出かけたりする。
 近くにはそんなにたくさんの公園はないのだけれど、狭い路地を歩いているのもまた楽しいものだし。
 結構歩いたつもりでも、まだ通ったことのない道路はたくさんあったりするし。
 他愛のないことを楽しいと思えるってことは、たぶん幸せなんだろうなとか思う。
 一人暮らしが長い人は、なかなか他の人と一緒に暮らせなくなるというようなことを言うけれど、ああそれはあるかもなあとか思う。
 一人暮らしは一人っ子みたいなものだから、その期間が長いとどうしたって自分なりのやり方や暮らし方やリズムのようなものが生まれてきてしまう。そしてそのリズムが同じ人なんていないから、なかなかに大変かもしれないなあと思うのだ。もちろん人生は様々なかたちで折り合いをつけていかなければならないものではあるし、人の適応力はなかなかにしたたかかつ柔軟ではあるとも思うのだけれど。

 一人暮らしは気楽だし、平日の休日も気楽。
 世の中は気楽で甘いことばかりでできているわけではないけれど、休日にはそれくらいいいじゃないかとか思う。
 いつもそうなわけではないんだし。


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 吉本ばななの『ハードボイルド/ハードラック』読了。ロッキング・オン。
 僕が気付いていないだけかもしれないけれど、最近は長編を出していなくて、それがちょっと寂しい作家の一人だ(もちろん村上春樹もそうだけれど、少なくともいま書いているという情報はわかっているので気長に待つことができる)。
 吉本ばななは高校生のときに親戚に『キッチン』を勧められて読んで以来途中からほぼリアルタイムに追いかけていたのだけれど、『アムリタ』くらいから出るたびにかならず、すぐ! という感じでは読まなくなってしまっていた。それがどうしてなのかは自分でもよくわからないのだけれど、好きな作品が初期の頃に集中していることからも、個人的な熱の時期とはずれてきてしまっているのかもしれない。
 ただ、個人的な熱の時期が過ぎても好きなことには変わりはないので、こうやってかなりの時差をもって手にとるし読んだりするのだ。
 だから、最近では吉本ばななを読むときには常に久しぶりという感じがついてまわって、そのせいか読むたびに「懐かしいなあ」とか「やっぱりこの人はすごい才能あるよなあ」と毎回思っている。空気感であるとか、透明感であるとかうつくしいものについて書かせたらこの人の右に出る人はほとんどいないよなと個人的には思う。
『ハードボイルド』の方には、作品世界を通じて途中から色濃くなってきたオカルト系の要素がやっぱりあって、ただ、こちら側とあちら側が近づいてしまう時間や場所というものについて、ものすごくリアリティのある話になっていた。
 そして、僕がこの短編でとてもよかったのがホテルのおばちゃんが言う「おばちゃんは長年ここで働いてるただのおばちゃんだよ。」というセリフで、無条件でこのおばちゃんのことが好きになってしまった。そんなに重要な人物でもないんだけど。

 吉本ばななは大抵の場合一人称で小説を書いているけれど、主人公の女性たちはいつもとても懐が深い人物であるような気がする。
 いろんな物事から等しく距離をとっているような、肩の力が抜けているような、情がそれほど深いという感じもないのだけれど、受け入れる寛大さを持っているような。
 まあ、吉本ばなな作品の主人公には様々な出来事が起こる(起こっている)わけだから、そうならざるをえないようなところがあるのかもしれないけれど、ただそういう後天的なものばかりではなくて、目の前に起こることを正しい重さで受け入れてしまうような基本的なスタンスが備わっているような気がする。自分が何かを我慢しているわけでもないのに、むしろ自分の感情に多くの場合従っているように思えるのに、それでも結果的に様々なものを受容してしまっているような、そういう懐の深さ。
 吉本ばななに関しては、そのうち他の作品も『My Favorite』のほうで。
 
 でも本当に、この作品を読んでいたら、吉本ばななが自らをすり減らして書きましたというような超長編小説なんかが読みたいなと、思ってしまったり。


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 先日、リベンジで部屋の近くにある和菓子屋に行ってきた。
 前回、洋菓子屋でショートケーキとモンブランを買って、それがことごとく乾いていたというのは一部では有名な話。
 洋菓子の敵を和菓子で討つ、というわけだ。
 結果は、○。
 美味しかった。
 和菓子自体をものすごく久しぶりに食べたせいかもしれないけれど、優しい感じの甘さだとか思ったり。
 それに和菓子はもともと乾いているしね(しつこい)。
 お茶と一緒に食べた。
 で、その中のひとつは小さな箱に入っているやつだった。
 箱の横に主原料が書かれてある。
 どれどれと読んでみる。


 主原料

 粉、砂糖、卵、無塩バター、アーモンドプードル、白糖、栗、ラム酒、ブランデー、重そう


 なるほど、いろいろ入っているんだな……と思って、最後のところでとまる。


 重そう(原文ママ)


「じゅうそう」だっていうことはわかるんだけど、こうして書くとちょっと……
 とくにダイエットをしている人が誘惑にまけて和菓子に手を出したというシチェーションだったとしたら、かなりきついアッパーになるような。
 罪悪感を感じながらでも我慢できなくて食べてるのに、主原料は「重そう」。
 思わず半分食べたお菓子をお皿に戻してしまいそう。
「やっぱりいらない……」とか悲しそうに呟いて。


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 お知らせ

 主原料の「粉」というところがちょっと気になります。


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