Sun Set Days
DiaryINDEX|past|will
実家の近くに手稲プールというところがあった。 JRの稲積公園駅というところから見える、比較的大きなプール。 スライダーがあって、流れるプールがあって、造波プールがあって、子供用の浅いプールがある。 僕は小学校の頃に、よくこのプールに行っていた。 友達や妹と、何度も何度も。 成長するに連れていつの間にか行かなくなってしまったのだけれど、それでもたぶん一生で一番数多く訪れたプールになるんじゃないかと思っている。
プールで覚えていることはたくさんあるのだけれど、売店で販売していたフライドポテトのことはよく覚えている。 プールのなかには何箇所か売店があって、そこではフライドポテトやアメリカンドックを販売していた。 泳ぎ疲れた頃に、やりくりしていたお小遣いを使ってその売店でそういう食べ物とかジュース(特にメロンソーダ。あの合成ばりばりの緑色が大好きだった)を買うのがとても楽しみだった。 途中のベンチで食べたり、荷物を置いているスペースがあるのだけれど、そこまで戻ったりして、買ったばかりの食べ物を食べる。 屋外のプールだったから時期や天気によっては結構寒かったのだけれど、それでもものすごく楽しかったのをよく覚えている。
プールは中央に大きな流れるプールがあって、時計の反対周りで流れていた。その中央に木で作られた遊具があって、四隅に、入り口と、造波プールと、子供用プール、そしてメインでもあるスライダーがあった。 はじめてスライダーをするときはなかなかにこわかった。 結構な高さがあって、一番上まで階段を上ると、公園や周囲の住宅地を見渡すことができた。プールは稲積公園というそれなりに大きな公園(野球場もテニスコートもある。冬になるとスノーモービルのコースもできる)のなかにあって、だから平地が多く視界が広かったのだ。 高さがあるので、風ももちろん強かった。 そして、えいっというようにすべるのだ。 水が流れているすべり台を勢いよくおりていく。 下まで到達するときには、バシャア! と波が高く上がる。そして目をこすりながら、「うおー」とか言ってまた階段をあがるのだ。 いま思えばどうしてあんなに? というくらいうかれてはしゃいでいた。 僕はいまでもどちらかと言うとよく喋る方ではあるのだけれど、小学生中学年くらいの頃は本当にびっくりするくらい、「口から生まれてきたんだね」と言われるくらい、喋り通していた。自分でも、どうしてあの頃はあんなに喋ることがあったのだろうと不思議に思うくらいだ。だからプールでも僕はやっぱりよく喋っていた。 本当に、肩からかける透明で絵のついているビニールのバックなんかに、タオルや替えの下着なんかを詰め込んで自転車で友達とプールに行くことは、夏の間の楽しみのひとつだった。
特によく覚えているのは、シーズン最後のプールのことだ。 札幌の夏は短いから、プールの開園期間が終わりに近づく頃には、泳いでいる人の数が急激に減っていく。 みんな他の楽しみを別の場所で見つけてしまったみたいに寂しくなる。 とりわけ、学校がはじまった後の曇天の日なんかには、10人もいるかいないかというくらいになることすらあった。 逆に言えば、寒ささえ我慢できれば、とてもぜいたくにプールを使用することができるわけだから、そういう時期にもそれなりには出かけていた。 ある年(たぶん小学校4年生のときだ)には、そんな曇り空の日に、僕は当時仲のよかった友人と2人で(なぜか、名字が思い出せないのだけれど)、学校が終わってからプールに行った。 ほとんど貸しきりみたいなものだった。僕らは泳いでは「さみー」と言い合い、造波プールで波を正面からうけ、流れるプールでも「水の中の方が暖かいよ」と言い、売店で何か暖かいもの(たぶんアメリカンドック。ケチャップとマスタードを、親に怒られそうなくらいつけるのだ)を頼んだ。あんまりにも寒かったから、そんなに長い時間いることはできなかった。 子供心にも夏が終わるのだと思った。 そしてあと数日もすると、プールの水が抜かれ、入り口にはチェーンが張られたままになることも知っていた。
プールを出て、自転車置き場で「バイバーイ」って手をふって友だちと別れて家路を急ぐ途中で、閉園間近のプールを柵越しに見た。 そこにはもう2人くらいしか残っていなくて、とても寒そうだった。 プールの水は、随分と冷たそうに見えた。 そういう夏が、何度かあった。 そうしていつの間にか年をとって、プールにはいかなくなってしまった。
もちろん、いまでも帰省するときに駅からプールを見ることはある。 けれども、もちろん行ったりはしない。 いつの間にか、スライダーはさらにすごいものへと変わっていた。 将来もしも子供ができたら、夏に帰省することがあったら、プールに子供を連れて行くのかもしれないなとか思う。 昔は、お父さんもここで泳いだんだぞって言ってみたりするのかもしれない。 かなり先の話になりそうな気がするけれど。
|