Sun Set Days
DiaryINDEX|past|will
| 2002年04月27日(土) |
『恋人たちの予感』+久しぶりの休日 |
彼はかぶりを振り、どうして自分はいつも突飛なことにこうした奇妙な賛美の気持ちを覚えるのだろう、といぶかった。それは子どもの時分、カーニバルの薄気味悪い見世物に抱いた気持ちだった。そう言えば彼が今までに愛した人間には、きまって何か少しおかしな、常軌を逸したところがあったようだ。だがそれも彼の場合、いったん魅力を覚えるきっかけになっても、最後はきまって破壊に終わるのも奇妙なことだった。(199ページ)
「手錠がでてきたでしょ」と彼女が言った。ヒッチコック名画アンコールショウと銘うった番組をヴィヴァリイ劇場で見たとき、『三十九の階段』の中で出てきた事件のことを言っているのだ。「ほら、あの金髪の女のひとと男のひとがいっしょに手錠をはめられてたでしょ――あたしね、あれを見てほかのこと考えてたの」彼女はヴィンセントのパジャマを着て、すみれの花束を枕の端にピンで留め、ベッドの上に膝をかかえてすわった。「みんなあんなふうにしてつかまってしまうんだなって、いっしょに手錠をかけられて」(220ページ)
『カポーティ短編集』より「無頭の鷹」。河野一郎編訳、ちくま文庫。
時々(あるいは何年かおきに)、どうしてか読み返してしまう短編というのが幾つかあって、たとえば吉本ばななの幾つかの短編や村上春樹編・訳のレイモンド・カーヴァー傑作選『カーヴァーズ・ダズン』、あるいは城山三郎訳のキングスレイ・ウォード『ビジネスマン、生涯の過し方』(これはまあ、エッセイ集だけれど)だったりするのだけれど、この『カポーティ短編集』もそういう本のうちの一冊だ。 とりわけ、「無頭の鷹」は読むたびに普段の生活の中では使わない部分の感情をゆっくりと突かれるような気がしてしまう。どこか幻想的で、でもクリアで無垢な人生を見せられてしまうような気がするのだ。クリアな人生がいいものであるかどうかということはおいておいて。
たぶん、短編でなくても、誰にもそんなふうに何回も読み直してしまうような物語があるのだとは思う。たとえば、長編で言えば『ノルウェイの森』、『ホリー・ガーデン』なんかは個人的にはそうだし。 いずれにしても、何回も読み直してしまうような物語には、ある種の共通項のようなものが根底の部分にはあって、その要素のなかにある何かが自分にひっかかるものなのだろうなと思う。あるいは、それらは共通項ではなくて、一人の人の多面性のそれぞれの部分を刺激しているだけかもしれないけれど。 それでも、小説に関して言うのなら、やっぱり惹かれてしまうある種のトーンのようなもの、傾向のようなものはあるよなとあらためて思う。 年をとって、そういうものって薄れていったり変化していったりするのだろうなと以前には漠然と思っていたのだけれど、それでも基本的には変わらないみたいだ。 三つ子の魂百まで、という諺だってあるわけだし。
ちなみに、『三十九の階段』というのは邦題では『三十九夜』(The Thirty Nine Steps―1935)という作品のことで、作中に確かに主人公とヒロインが手錠で繋がれてしまうシーンがあったと思う。機密を知ってしまった主人公が様々な追っ手から逃げ続けるサスペンスなので、暗いシーンや隠れているシーンが多かった記憶がある。学生時代にレンタルビデオで見たのだけれど、面白い作品だった。 これはあらためて言うことではないのだろうけれど、ヒッチコックはやっぱりとても面白いと思う。まだその膨大の作品の一部しか見たことがないけれど、ゆっくりと少しずつ見ていきたいなとは思う。
―――――――――
『恋人たちの予感』を見た。 新大阪駅にある大型書店のDVD売り場で半ば衝動的に購入しておいたもの。 出張でしばらく映画から遠ざかっていたので、何か見たかったのだ。 で、廉価版のコーナーの中にあったこの作品を選んだ。 理由は、学生時代の友人がこの作品のことをずいぶんと褒めていたことを思い出したことと、ビリー・クリスタルもメグ・ライアンもよい俳優だと思うこと。
Story ひょんな事から友達の恋人(ハリー)をニューヨークまで送ることになったサリー。お互いの印象は最悪、車の中では「はたしてセックスは、男と女の友情の妨げになるのだろうか?」が議論のテーマだった。そして11年が経ち、偶然にも再会した二人はまだお互いにその答えを見つけられずにいた。二人の間に愛は生まれるのか、それとも、初めて出会ったときからの変わらぬ関係を続けるのか…?(DVDパッケージ裏側紹介文より)
ストーリーは素直におもしろかった。アメリカ映画っぽいロマンティック・コメディで、こういう見ていて肩のこらない作品はこういうとき(出張から帰ってきたばかりでのんびりしたいとき)にはいいんじゃないかと思う。 お互いの第一印象が悪かった二人が、数年後の再会から仲良くなり、それからお互い気になる存在になっていく、そして……というある意味定番のストーリー展開なのだけれど、そういうのってやっぱり見てしまうし。 男女の友情が成立するのかという問題に対しては別にケースバイケース、相手によっては成立するし、相手によっては成立しないと思うのだけれど、まあ考えてもあまり答えの出るような問題じゃないのだろうなと思う。 答えだって紋切り型の範疇を出ることはないだろうし。 (それに、こういう映画で男女の友情が友情のままで成立するとなってしまったら、話が成り立たなくなってしまう面はあるし)
そして驚いたのが、この映画が1989年の映画であるということ。 もう10年以上経っているのだ。 確かにメグ・ライアンも若いし(髪形も80年代風だ)。
それにしても、ビリー・クリスタル演じるハリーはウィットに富んだ会話をする人物なのだけれど、日常生活でああいうウィットのある会話をしている日本人って少ないよなぁ……とか思ってみたり。
―――――――――
……ということで、勘のいい人は気付かれたかもしれませんが、今日のDaysはあのシリーズの登場です。 それではどうぞ。
ウィットのある会話と言えば……?
……
……
乱れ飛ぶスポットライトの光、ドラムを中心とした激しいオープニング・テーマ。ステージに現れる一人の男。
やあみんな! ウィット・クラブ会長のウィッキーです! 今日はボクのトーク・ショー「ウィッキーのウィッと一杯」に来てくれてどうもありがとう! ヤア! ヤア! ヤア! 今日はまたたくさんのお客さんたちが来てくれているねぇ! それだけ日本でもウィットのある会話を楽しみたいって人が増えているんだね! ウィッキーさんは本当に嬉しいよ……(胸ポケットからハンカチを取り出す)う、うううう……うれしいよう……(なぜか号泣)。
(マネージャー舞台袖から登場。ウィッキーを舞台の端に連れて行き、肩を叩いて励ます。ウンウンと頷くウィッキー。観客たちが心配そうにウィッキーを見つめている。ウィッキー、元気を取り戻してステージ中央へ)
お待たせ! 最初からちょっと感動しすぎちゃったね! じゃあ、ここからは飛ばしていくよ! まずはビックなニュースから。 あの、先日発売になったばかりの『ウィッキーのウィッと一杯「こんなときにとっさの一言」』がなんと! 絶版になったよ…… たった一ヶ月でさ……(胸ポケットからまたハンカチを取り出す)う、うううう……(号泣)。
(マネージャー再び舞台袖から登場。ウィッキーを舞台の端に連れて行き、さっきよりも強く肩を叩いて励ます。ウンウンと頷くウィッキー。観客たちが心配したようにウィッキーを見つめている。ウィッキー、元気を取り戻してステージ中央へ)
お待たせ! みんなありがとう! こんなことでへこむボクじゃないよ。やっぱりあの本はまだいまの日本のウィット・レベルには早かったみたいだしさ。 でもこの番組を通じて、もっともっとみんなでウィットを楽しんでいこうよ! ウィットは大人の会話の潤滑油さ!
それに今日は、あの人気コーナー「ウィッキーのウィット対談」があるしね! 各界のウィット溢れる人物をお呼びするこのコーナー、今日はまたとびきりの豪華ゲストだよ! なんと! あのウィットのある問題発言で物議をかもしている佐藤議員なんだ!
(会場どよめき。佐藤議員と言えば、いままさに裏金スキャンダルで証人喚問等にかけられようとしている話題の人物なのだ。ほとんどの民放のテレビ番組のインタビューを拒否している佐藤議員が、どうして『ウィ・ウィ』に? よく見ると、会場のいたるところに、他局の取材班なども控えている。ここで、決定的な発言を聞くことができるかもしれないとふんでいるのだ)
(会場のセットが対談用のセットに変わる)
さぁみんな! いよいよ佐藤議員の登場だ! 佐藤議員と言えば、いま様々な疑惑にまみれている人物だよね! 議員とボクとの高いレベルのウィットのある会話を通じて、大人の社会っていうのを感じてみて欲しいな! たぶん、みんなは話題の疑惑のことを知りたいと思うんだけど、それは大人の会話じゃないよね! それとない会話の中から、うまーく核心をついていく話に持っていく。その微妙かつ絶妙な話の運びを助けるのが、他でもないウィットなんだよ! もしかしたら今日、ボクのスペシャルなウィットで、ここでとんでもない事実がわかってしまうかもネ! それじゃあ、佐藤議員どうぞ!
(会場拍手)
(佐藤議員登場。背の高い、貫禄のある人物。主な役職を歴任してきた政界のボードリーダーの1人だが、先月様々な業者からの裏金疑惑が持ち上がり、それによって議員辞職を迫られている。それでも、憔悴することなく威厳を保っている、重厚な威圧感のある人物である)
「やぁ! 佐藤議員! 元気かい!」
(佐藤議員が登場するや否やいきなり議員の肩を激しく叩くウィッキー。それから握手をして議員をソファーに座らせる。少しむっとした表情の佐藤議員。会場は、客席に向かって斜めにソファーが「八」の字に設置されており、中央にセンターテーブルが置かれている。客たちはウィッキーの立場をわきまえていないように見える振る舞いにざわめく)
ウィッキー:それでは、今日はいろいろとお話を聞かせていただきたいと思いますね。よろしくお願いします。
佐藤議員:うむ。よろしく。
ウィッキー:で、もらったの?
佐藤議員:は?
ウィッキー:だから裏金。
……『ウィッキーのウィッと一杯』打ち切り決定。
―――――――――
今日は久しぶりの休日だったのだけれど、カラダは仕事モードのままだったので朝早く目覚めてしまう。そして、明日は出勤なので眠っているのでは時間がもったいないかなと思いそのまま起きることにする。 10時までに後輩に送る約束をしていた仕事のメールを打って、近くのクリーニング店に久しぶりに行って、コンビニで飲み物を買う。土曜日なのにジャンプが売られているのを見つけてそれも買う。以前にも書いたかもしれないけれど、僕は小学校2年生からジャンプだけは買っていて、『こち亀』が終わるまではとりあえずは買い続けようかなと(今のところは)思っているのだ。
ジャンプを読んでから、上記のように短編を読む。それから、昨日帰りの新幹線の中で書いていた金曜日分のDaysをアップする。
そして、せっかくの休日なので出掛けることにした。 行き先候補は2箇所。 ひとつは、青葉台の「東急スクエア」で、もうひとつは海老名の「ビナウォーク」。 どちらもショッピング・センターだ。 僕は元々好きだったのと自分が流通業に従事していることもあって、新しい商業施設を見て回るのは結構好きなのだ。 それで、前者は「伊東屋」や「Book1st」、そして東急ハンズ初の小型専門店「HANDS SELECT BATH&KITCHEN」などが3月にオープンしたばかりで、後者は丸井やヴァージン・シネマズなどが4月にやっぱりオープンしたばかりだったのだ。 どちらも、日経MJで取り上げられていて部屋から行くことの出来る距離だったから、興味があったのだ。
結局、今回は青葉台の方にした。「HANDS SELECT」を見たいなと思ってしまったのだ。 東急ハンズはいままでは大型店中心の出店で、それ故に大都市圏にしか店舗を構えることができなかった。けれども、今回のタイプはバスとキッチン用品に特化した形の店構えなので、商圏人口も売り場面積もずっと小さくて済むのだ。そして、各地のショッピング・センターへの出店も視野に入れて、実験店としてオープンしたと言うようなことがMJには書かれていた。 そういう意味では、青葉台というのはいい選定だと思う。ハンズの価格帯って個人的には高いと思うのだけれど、その価格帯でも青葉台なら問題はないのだろうし(比較的可処分所得の多い層が住んでいるらしいのだ)。
ある程度限定されるスペースに出店していたので、どの店舗も狭いというイメージを拭えなかったのだけれど、それでも商業集積という意味で言えば便利だよなとは思った。青葉台の東急スクエアというのは通りを挟んで3つの建物から構成されているのだけれど、その中には「ユニクロ」も「2プライススーツ店」も「無印良品」も「スターバックスコーヒー」も「石丸電気」もある。それに、上記の店舗が加わるのだから、専門店同士の相互補完というのはかなり高いレベルで維持されていると言えるだろうし。 青葉台は急行なら渋谷まで30分かからないくらいの距離ではあるのだけれど、これらの店舗があれば沿線住民のちょっとしたこだわりの買い物には充分すぎるほどだ。実際には、どの程度の購買率なのかはいまいちわからなかったけれど。
「HANDS SELECT」はハンズのバスとキッチンの売り場をそのまま持ってきましたというような品揃え、売り場で、いままでハンズなどを利用したかったけれど面倒で行かなかったような層にとっては便利だと思う。いちいち都心までなければ揃えられないようなキッチン用品も揃うわけだし。個人的には自分がよく買う物とかぶらない店舗ではあるから、思っていたほどの新鮮な驚きや魅力は感じられなかったけれど(想像以上に店舗が小さかったのだ)。
あと、シネマコンプレックスがあれば、青葉台はかなりバランスがとれていると思うのだけれど。
―――――――――
お知らせ
出張中ほとんどDaysに時間がかけられなかったので、その反動なのか今日は長くなってしまいました。
|