Sun Set Days
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2004年07月05日(月) Little Prayer

 昔、出張で訪れていた小さな町で、休日に散歩をしているときに商店街のアーケードに並べられた短冊を見たことがある。地域の幼稚園や保育園の子供たちが書いたらしい短冊がたくさん並べられていて、「ぽけもんがほしいです」なんていうことが書かれていた。その中で一枚、とても印象に残る短冊があって、それには「おんぷになりたい」と書かれていた。どうしてかそのことは折りに触れて思い出されたりして、以前にも一度Daysにも書いたことがある。


 今日、夕食をとるために後輩と一緒に入った店(2日前に4人ででかけたところと同じ店)でも、入り口のところにたくさんの短冊がかけられていた。会計のときにはじめて気がついたのだけれど、レジの横に短冊とペンが置いてあって、何か願い事を書いて、外の笹につけてくださいとのことだった。言われてみれば確かにいまは七夕間近で、そういう粋な計らいをしているようだったのだ。


 店を出て、さっそくどんなことが書かれているのかと見てみた。確かに創作和食っぽい店の入り口の前には、たくさんの笹があって暖色の間接照明で彩られていた。
 最初に見た短冊には、


 やきゅうせんしゅになりたいです。


 と書かれていた。つたない、子供特有の字で名前も全部ひらがなで。その短冊を見ながら、そういうことを何の躊躇もなく書くことができるのってやっぱりとても幸福なことなのだろうなと思う。そして、他のやつを見てみる。


 お金持ちでかっこいい人が現れますように。
 お金持ちの男の人と知り合えますように。
 素敵でお金をもっている人と出会えますように。


 日本の不況はついにここまで……というわけではないのだけれど、今度はちゃんとした大人の字でそんな内容が書かれている短冊が目に入った。しかも、そんな短冊は何枚もあった。
 そんな男はほとんどいないだろうとか思いながら他の短冊に目を移す。


 もちろん、古風ないかにも短冊っぽいやつもちゃんとあった。「健康でいられますように」とか、「毎日幸せに生きていくことに感謝しています」というようなやつ。そういうのを見ていると日本的なわびさびな情緒もまだ捨てたものじゃないなとか思ったりする。
 けれども、それほど数はなかったそれらの短冊の中で、一番印象に残ったのは次のものだった。
 本当に、なんだかびっくりした。
 その短冊にはこう書かれていたのだ。


 やまだでんきになりたいです。


 ええーっ、と思わず声を上げてしまうくらい驚いた。やまだでんきになりたいって、いったいそれはどういう意味なのだろう? 本当に一瞬唖然として考えてしまった。
 もちろん、いろんな解釈がなりたつ。その子(字は子供のものだった)にとってヤマダ電機(株式コード9831)はゲームソフトやテレビやデジタルカメラなどを扱っている何でもある最高に憧れの場所で、その思いが募ってそんなふうに書いてしまったのだとかそういうやつ。でも、その言葉に圧倒的なインパクトがあって、なんだか妙にツボにはまってしまった。


 やまだでんきになりたいです。


 親はたぶん微苦笑しながら、子供が短冊をつけるのを見ていたのだろうなと思う。そしてそのことは格好のネタになって、数年後親戚たちの間で、「○○君は子供の頃やまだでんきになりたかったんだよね」とか言われるのだ。


 そういうのって、ささやかな幸せと言えば幸せな気がする。


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 お知らせ

 Crystal Kayのアルバム『CK5』を買いました。すごくいいですね、これ。


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