みかんのつぶつぶ
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2003年05月14日(水) 在ったということ


また来ん春と人は云ふ
しかし私は辛いのだ
春が来たつて何になろ
あの子が返つて来るぢやない

おもへば今年の五月には
おまへを抱いて動物園
象を見せても猫(にやあ)といひ
鳥を見せても猫(にやあ)だつた

最後に見せた鹿だけは
角によつぽど惹かれてか
何とも云はず 眺めてた

ほんにおまへもあの時は
此の世の光のたゞ中に
立つて眺めてゐたつけが……

中原中也:また来ん春

この詩を初めて読んだときには鳥肌がたった。
最後の三行、ここに凝縮されている想いにただただ共鳴するばかりで。

彼は、何を見ているのだろう。
母に代わって私がレンズを向けたときに何かを見上げてた。
照れくさかったのか、
イヤだったのか。
それとももう待ちきれなくて飽きてしまったのか。
どちらにしても写真を撮られるのはイヤだったということか。

この頃にはもう、全く歩けなくなっていた。
抗がん剤も何回目だっただろうか。
記憶が薄れている。


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