夕暮塔...夕暮

 

 

- 2004年08月25日(水)

少し小さめの箱に納まって布をかけられたルルは、私が幾度撫でてもぴくりともせず、眠りかけの時のうっとりしたような表情のままで時間を止めてしまっていた。大きく垂れた耳の柔らかさも、水を薄く張ったような黒々とした瞳もそのままなのに、どこもかしこも信じられないくらい冷たい。
「連れて行きたくないねえ、…」はたはたと涙を零すと、妹も鼻をすすって「うん」と頷く。ペット用の葬儀場へ向かう道の輝くような静けさが、今はただ残酷で切なくて、永遠に着かなければいいのにとぼんやり思う。
最後のお別れをと職員の方に促されて、撫ぜながら声をかけようとするのに、必死に搾り出しても嗚咽しか出てこない。…さよならだよ、ごめんね、ありがとう、ありがとう。
わがままで落ち着きがなくて、いつまでも仔犬みたいな性格だったけど、本当に人間が好きで、私に大切なことを教えてくれた。どうしてもう明日から会えないんだろう、お前が家に来た十数年前の午後のことを、きのうの事みたいに鮮やかに憶えているのに。


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