日々是迷々之記
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2001年10月16日(火) 空がまた暗くなる

退院後、初の通院のため病院へ向かう。タクシーで行こうかなと思ったけど、運動の意味もあるので地下鉄で行くことにした。ゆっくりペースで歩き出す。階段は一段づつ足を揃えて上り下りする。いつもの1.5倍の時間をかけて病院にたどり着くとなんだかグッタリしていた。しかも混んでいる。

待合室の長椅子に腰掛け、ぼんやりする。気がつくと眠っていて一時間ほど経っていた。ついでにもう一眠り。私の名前が呼ばれたのはそれから小一時間後のことだった。

T先生に抜糸をしてもらう。明後日からお風呂につかってもいいですよ。とのこと。それまではってことで包帯とネットで保護している。引きつらないだけ歩きやすくはなったが、包帯があるとズボンと干渉してやっぱり歩きづらい。リハビリはいつ再開するかって聞いてみたら、まぁ、様子を見ましょうってことだった。私にとってリハビリに通うのは日々の中の唯一のルーティンでしんどいけれど行くのが楽しみになりつつあった。実質一人暮らしなので誰かとしゃべるのが楽しいのだ。

じゃまかな?と思いつつリハビリ室を覗きにゆく。きっとわたしのように意味なく現れる人間もいるのだろう。めっちゃ普通に会話できて、なんだかほっとした。いつものようにあたりさわりのない会話、パソコンとかクルマなんかの話が主だ。「いいっすよ。6速ミッションは〜。」と言われてわくわくしてしまう。今度購入予定のクルマが6速ミッションである。しかし私は何故かオートマ限定免許というものなので限定解除をしないといけないのだが。

バイバイを言って、病院の出口に向かうとM先生と会った。「何で退院しちゃうの?さびしいからおって欲しいのに。」とすれ違いざまに言われる。なんとなくへらへらと笑って、会釈をした。

スーパーによって家路につく。しかし、荷物を持つとしんどさ倍増。地下鉄を降りて歩き出すとあまりにもしんどくて道ばたで休憩する。縁石に腰掛け、犬の目の高さになった。うう、疲れた。

しかし、へたりこんでも何にも進まないので重い腰を上げた。てくてくてくてく。こんな楽しくないてくてくモードは久しぶりだ。泣きが入りそうになったとき、私より先に泣き出したのは空のほうだった。

ぽつぽつぽつ。水滴が肌に触れる。あとマンションまで100メートル。で、エントランスから建物まで50メートルくらいか。傘がないが、走ることはできない。濡れるほどではないけれど、雨粒を浴びながら、ペースを変えず、たんたんと歩き続ける。

これを、「走れないから濡れてしまう。この足が憎い。」と思うのか、「入院していたら雨を感じることもできない。去年は実質上秋と冬はなかったし。」と思うのかと考えたとき、私は後者であった。バイクに乗っていたせいか、雨は避けられないのでいつの間にか受け入れるようになった。雨のにおいに鼻をひんやりさせながらマンションに着いた。

しかし、そこでマンションの管理をしているおばちゃんに話しかけられた。足、前より痛そうだねぇ。とのこと。もう一度、手術をしたのですよ、と答えると、痛いことばっかりで可哀想ねぇとのこと。そうか、わたしは可哀想なのか…。他の人から見たらそうなのかもしれないなぁと思いつつ、何か釈然としない。それ以上返す言葉がなく会釈して家に入る。

さっさと着替えて食事をする。「可哀想…。」久しぶりに投げかけられた言葉だ。少しの間、マックちゃんと遊んでフトンに入る。あっという間に晩になり、ダンナさんからの電話で目が覚めた。今日の報告と言う感じで話すと、足もシンドイし、精神的にも来てるんでもうちょっと入院してきたらと言われた。そうかもしれない。

今日、帰り際にM先生が言った言葉を思い出す。病院は暖かい世界だ。私のことを分かっている人たちがいて、押しつけたりせず、でも導き、安寧に向かわせてくれる。「体の悪い人」みたいな扱いはしない。病院に戻ろうかなと一瞬思う。

でも、「豚の安心を買うより、狼の不安を背負う」ことを選んだのでやはり家でやっていくことにした。私にできることはまだあるはずだ。全部やってもムリならそのとき病院に入院しようと思う。それからでも遅くないはずだ。

頭痛を抑えると言う意味でも、もらった痛み止めを飲んで眠ることにしよう。明日は私の空も晴れますように。


nao-zo |MAIL

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