日々是迷々之記
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週に一度の通院の後、スーパーや本屋さん、クリーニング屋さんをまわって、両手に荷物をぶらさげふらふらとマンションに辿り着いたのは4時をまわったころだった。
郵便受けから取り出した手紙に目をやりつつ、ロビーに向かうとキックボードに乗った幼稚園児が何やらおたけびをあげながらやってきた。後ろからその子のお母さんらしき人ともっと小さい子供がやってきた。
「××ちゃん、上押して。」お母さんが言った。「え〜、イヤ〜。」子供が言う。「押しなさいって!」「うぇぇ〜、どうしようかなァ〜」押すふりをして手を出したり引っ込めたりしている。「早く押しや!おねえちゃんが怒るで!」おねえちゃんとは私のことかい。決まり悪そうにその子がボタンを押した。何だか嫌な予感がする。
エレベーターが到着し、我先にとキックボードの少年が乗り込む。そして、弟らしき子供、そしてお母さん。最後に私が乗り込んだ。私が4階を押し、そのお母さんが13階を押した。ぐぃーんと音を立ててエレベーターが動き出す。
「もぉあんた、エレベーターの中では(キックボードから)降りなさいいうていつも言うてるやろ。」「えぇぇ〜」「ブシュ〜」弟をこづいている。「やめてぇやぁ。」まるで自分の家状態だ。私はひそひそと(することないんだけど、なんとなく)ドアの前に移動した。
その時だった。膝の裏にがくんという衝撃を感じてよろけてしまった。一瞬何が起こったか分からなかったが、振り向くとキックボードごと子供がひっくり返っていた。13階に着いたと勘違いして勢い良くキックボードを蹴り出したが、そこに私がいたという訳だ。
「うぅ。」軽くうめいた。いわゆる膝カックン状態だ。「もう!アンタ乗ったらアカン言うてる先からホンマに。あらもう済みませんね。××君!アカンよ、こけたら痛いやろ?」まるで上沼恵美子状態でまくし立てる。しかも声がデカイ。私は何も言う気が無くなって、そのままエレベーターを降りた。
膝もびっくりしてるし、あのガキもバカだし、でも何よりもあのオカンがむかついてどないもこないも、あ〜イライラ!してしまった。大体、私だったから良かったけど、杖のお年寄りとか、義足の人とかだったら、しゃれにならないと思ってしまう。
こういうのを見ると、将来は絶対親になんかなりたくないと思ってしまう。面倒見るのは自分自身でたくさんだ。よしんば親になるとしても、ああいった半径50センチくらいしか視野のない無神経な妖怪のような一家を作ることだけは避けたい。しかも、あのお母さんは多分私と一緒くらいの年だと思う。よくもあそこまでオバサン怪獣化できるなぁと感心してしまった。
足が治ったら、エレベーターを使うのはやめようと堅く誓ってしまうような出来事だった。
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