日々是迷々之記
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2001年10月27日(土) |
亀ガキとその親、そしてクソジジイ |
電車の中で私は座席に座っていた。K都駅に着くとどさどさっと人が降り、入れ替わるように人が乗ってきた。私の隣も空席になり、入れ替わるように幼稚園前くらいの男児が座った。彼の目の前には母親とおぼしき女性。私よりすこし若いくらいか。
座るいなや、その子は手に持った大きく膨らんだコンビニ袋から亀を取り出した。亀、である。甲羅の径は5センチX3センチといった感じか。ミドリガメのようだ。子供は甲羅をつかみ、「ひゅ〜、バイ〜ン!」などと、空を切るガメラのようにして遊んでいる。
私は顔文字のヒヤアセ君のような気持ちになり、ささっとMDプレイヤーのイヤホンを耳に突っ込み、音楽に耳を傾けた。目を閉じていたらうたた寝しており、ふくらはぎのひんやり感で目が覚めた。
よく見ると、びっしょりではないが、ふくらはぎからつま先にかけて、ジーンズとブーツが濡れている。隣の子供の亀が入っていたコンビニ袋からこぼれているのは明らかだった。電車の床はびっしょりで、向かいに立っていた女性のブーツはスエードだったのでいかにも濡れてますといった感じだ。
「あの、こっちまで水が来て濡れてるんですけど。」私が母親と、子供に向かってそう言った。すると、驚いたことに、母親はくるりときびすを返し、座席にお尻を向けるではないか。「シートまでびしょぬれなんですけど。」私が言葉を続けても、母親は背を向けたままだ。子供は助けを求めるように母親の方を見ている。
これはどうしょもないと思い、とりあえずティッシュペーパーを出して、私のジーパン、ブーツ、そしてシート、手の届く範囲の床を拭いた。こけたらアホみたいだからだ。わたしは子供に向かって「お前も拭かんかい!」という視線を送り、無言でティッシュペーパーを差し出す仕草をした。でも、子供は分からず、きょとんとしている。
拭きとったティッシュの山を集め、その子供に捨てさせようと渡そうとしたとき、電車はK津駅に着いた。すると、母親は脱兎のごとく出口へ向かい、開いたドアから駆けだした。子供はきょとんとしつつ無言でそれを追いかける。
残されたティッシュの山を前に、私はボーゼンとしてしまった。シカトこいて、子供まで置いて逃げようとするなんて、荒技ではないか。これでも母親顔して世間を渡って行っているんだから世の中はすごい。そもそも、電車で帰るのに、亀を買い与えるべきではない。しかもコンビニ袋に水を入れてって、どういうもんなんだろうか。結局終点で私は降り、ゴミ箱にティッシュの山を捨てた。
そして、その日は人身事故があり、終電車で家に帰ることになった。JRの最寄りの駅から徒歩で25分。今の足なら30分くらいか。てくてくと家路を急ぐ。その時背後から自転車のチェーンの音が聞こえる。私はとっさに車道側から遠のいた。鞄をひったくろうとして、こかされたらシャレにならないからだ。
しかし、それはひったくりではなく、私を通り過ぎた。考えすぎかと思い、歩き続ける。すると、その自転車はUターンをして戻ってくる。酔っぱらいかと思い、距離を開け歩き続ける。するとすれ違いざまに「オ○コ。ブツブツ…」と分かるようにつぶやき、わがの右手で股間をまさぐっているではないか。「どっしぇ〜!!」と私は思い、ペンティアム4並の処理速度で考えをまとめた。「勝負して勝てそうか?自転車に蹴りを入れてこかして、眉間にワークブーツのカカトを押し込めれば勝てそうだ。でも、何もされていない以上、過剰防衛になるだろう。これは防御に回るべきだ。」
そう判断し、私はジャケットのポケットに手を入れ、リダイヤルを押し、ダンナさんに電話をかけた。「モヒモヒ〜」明らかに寝ていたようだ。私はわざと大きな声で、「不審な男がママチャリで付けてくるから、家に着くまでしゃべっていて欲しい。」と伝え、とにかくしゃべり続けた。ダンナさんはタクシーを拾って帰りなさいと、言った。しかし、そこは住宅街の真ん中でタクシーが来る通りまでは100メートルはあるだろう。わたしはこの100メートルを永遠のように感じながらも大通りへ進んだ。
わたしが携帯電話でしゃべっているのを見て、股間まさぐりオヤジは舌打ちをして去ってゆき、もう、戻ってくることはなかった。そして大通りに出るとすぐにタクシーが来て、わたしは家に帰り着いた。
一体今日は何だったのだろう?ガキンチョの亀攻撃に、無関心世間知らず母、そして股間まさぐりオヤジの接近。世間は私の予想を超えた人格を生み出し、それを許容している。
それでも生きて行くには、国外脱出か、世捨て人になって山ごもりしかないのだろうか?いやはや。どうしたもんか。疲れたのでさっさとフトンにもぐりこんでしまおう。
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