日々是迷々之記
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金曜日は会社を休んで遊んだ。木曜日は定時で会社をあがり、家に帰りおにぎりを握ってザックを背負い家を飛び出した。青春18きっぷを握りしめ、目的地は岐阜県の中津川。普通列車で5時間ほどかけて向かい、そこでだんなさんの車に拾ってもらった。
向かう先はおんたけのスキー場。親が死にかけてるのに…と世間の人は思うのだろうが、親のことを考えない時間が欲しかったのだ。今年買ったブーツと板はかなりいい感じだった。でもブーツは慣れるのに時間がかかりそうだ。ころげまわって、ひだまりの雪の上に寝転がってだんなさんとしゃべる。乗鞍の山が晴天の空に映える。
帰りに、白樺の林を抜け、温泉に入る。ぽかぽかの体でクルマに乗り、コンビニでコーヒーを買い、サザンを聴きながらだんなさんの家に向かう。(だんなさんはサザンのファンなのだ。)途中のスーパーで夕食とビールを買う。
何だか幸せだなぁと思った。息が詰まるようなことばかりで、今誰かに殺されても文句は言わない、むしろ感謝するよと思っていた昨日までが嘘のようだ。結局私は楽がしたい。ベッドの上の母親のことなど放置してしまいたい。
なのに毎日見舞いにゆく。嫌なら行かなきゃいいのだが、生かしてくれようとする先生方、私を勘当されたにも関わらず献身的な娘だと褒める母親の妹たち。そういう人の目があるから、私は行くのを止めることができないだけだと思う。いい人だと思われたい、私はそういう浅ましい人間なのだ。
今日も愛知県から18きっぷで帰ってきた。帰りたくないと、思わず本音が出てしまうと、「帰りたくなくなるのはいつものことやろうが。」とだんなさんは言った。そうだ、いつものことなんだよ、と思いつつ日の沈み行く車窓の景色は暗くにじんで見えた。
本当なら連泊してスキーを思いっきりやろうと思って、一ヶ月前から根回しして金曜日を休んだ。その矢先に倒れた母親。軽く恨んだ、鬱陶しいなと思ったのが本音だ。その気持ちを悟られないように私は旅先から病院に直行する。スキーブーツを持ち、ザックを背負い、そしてドラッグストアで紙おむつを買う。ディスカウントストアで買えば半額なのに、と思いつつ自虐的な気持ちでお金を払う。
私は偽善者なのだ。本当は愛情なんかひとつもないのに病院に見舞う。心と体をすれ違わせるようにして半笑いで生きて行く。いつからこんな姑息になったんだろう。
「人は神様が死んでもいいと言うまで死んではいけない。」と昔読んだマンガにあった。何をもっていいとするのか分からないが、私のような半端な人間にもそんな日はくるのだろうか。
こんな気持ちのまま、明日も、明後日も病院に行くのだろう。語りかけても何も反応のない母親の前で、思いやる振りをして実家の家賃や入院費用、病院から必要だと言われた物の買い出し…片づけるべきことに頭の中はいっぱいだ。
そして今日も眠れない。
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