日々是迷々之記
目次|前|次
| 2004年12月20日(月) |
それでもきっと生きて行く |
今日は母親の見舞いに行かなかった。妹を乗せて病院まで行ったのだけれど、道が渋滞していて見舞っていたら仕事に間に合わなさそうなので、仕事の後に行けばいいやと思ったのだ。
が、仕事が終わったら今度は雨。カッパを着てまで病院に行くのも気が引けるので結局そのまま家に帰ってしまった。帰ってから郵便局に振り込みに行き、本屋で立ち読み。家にもう一度帰る頃、雨はすっかり止み、わたしはちょっとゆっくりできてほっとした。
結局私は見舞いなんか行きたくないのである。顔も見たくないというのが本音だ。
今で入院後約10日。たった10日で私の32年の人生をそのまますぱんとひっくり返してしまうようなことが判明した。母の妹に聞いて知ったのだが、私は長女ではなかったのである。母親は再婚で、前の夫との間に娘がいて、今37歳。大阪ミナミでホステスをやっているらしい。私は母親が再婚であったことも、子供がいた事も知らされていなかった。
ただ一度、祖母のお葬式の時に知らない人が来ており、母親と深刻げに話をしていたのを覚えている。その人が姉にあたる人だったのかもしれない。母親が墓場まで持っていこうとしていた秘密がもうひとつ追加された形だ。
私は長女としての責務を与えられ、子供なりのプライドを持って生きていた。特に母子家庭なので母親が働く人、私が家を守る人、そんな役割分担がほぼできあがっていた。親が離婚した後、親戚の家に預けられ、そこを逃げだし母親の元に居着いた形の私は、少しでも嫌われたくなかったので好かれる努力をした。たくさん勉強をして学年で2番くらいを保っていたと思う。
しかし、いくらいい子で居続けても、離婚後も私は母親の姓を名乗らせてもらうことはできず、父親の姓のまま同居していたので、その時点で愛情もへったくれもないのが今となってはわかるのだが。当時は、父親が私に嫌がらせをするために父親の姓から母親の姓に変わることを許可しないという母親の言葉を信じていたが、大人になってから調べてみれば、そういうものは既成の事実に基づき、父親の許可がなくても母親が訴えを起こすことで比較的簡単に母親の姓に変われることを知ったのだ。それは最近の話。
そんな母親が瀕死の状態で病院に運ばれ、親族のことを聞かれたときに出したのが私の名前なんである。その真意はどこにあるのだろうか。30年以上も大切にひた隠しにしてきた長女よりも、私の方が御しやすいと思ったのだろうか。それとも寝たきりになって迷惑をかけてやれとでも思ったのであろうか。
昨日の日記を読んだ友人からメールをもらった。そこにはある作家の小説の一部分が引用されており、それはまさしく私そのものだった。
「「父なき子」は父親が不在な分だけ、圧倒的な母親の支配下に置かれる。 〜 周りの父なき子達を見ていると、 母親の凄まじいまでの支配にボロボロにされているのがわかる。
特に一人っ子だったり、長女だったりした場合は大変だ。 なぜか父なき子の母親は長女には冷たい。辛く当たる。 そのくせ徹底的に支配しようとする。 もちろん、母親は悪気があってそれをしているのではない。 娘のためによかれと思っていろいろ考えている。 〜
母が傍若無人になった時、娘はなす術がないのである。 せいぜい突き飛ばして逃げるのが関の山だ。 しかし母親というのは執念深くてどこまででも追ってくる。 どこかで子どもは自分の一部だと思っているからだろう。 無くした片腕を探すかのごとく娘に迫ってくるのである。」
客観的に見れば恐ろしいことだ。しかし、事実これは私の育ってきた世界だ。私の頭は実はおかしくなってしまっているのではないかという恐怖に目がくらむ。これから先、人生のどこかでおかしな育ち方をした弊害が出てきてしまうのではないか。暗闇の一本橋のようで足がすくむ。
父親と母親は私が生まれた5年後に結婚していることを考えたとき、私はこの世に望まれて生まれてきた気は全くしない。単に母親が離婚後に父親とつきあい出し、子供ができたものの結婚もせずずるずると行くのもあれなんで、今更だけど結婚しますか?みたいなノリが想像できる。
まぁ勝手な想像だが、父親が亡くなり、母親が脳梗塞でほぼ半身不随となってしまった今では何も確かめる術がない。いまさら確かめてどうこうする気もないが、よくぞここまで私をバカにしてくれたなぁと思う。騙して隠してよくぞ育ててくれたものだ。
ここまでくると涙も出ないというのが本音だ。むしろここで泣いたら私の負けだと思う。「ほらあんた、そら見たことか。お母さんの言うことを聞かないからそんなことになるのよ。」という自己満足感たっぷりのいつもの言葉が聞こえてきそうだ。
死ぬほどくだらなくて、俗で、浅はかな母親。これは紛れもない事実。私の中にはその血ががっつりと流れている訳だが、それでも私は生きて行くだろう。
母親の声が聞こえない、気配も感じないどこかへ向かって。
|