駄文
蒼海 零



 (言葉・・・ことば。)



底の澱んで、外壁の定かでない水槽を想像してほしい。

言葉は、そこから沸き上がる泡だ。
大小取り敢えず、水面に浮かんで弾け消える泡沫だ。

比較的浅いところであれば、泡は割りに透明で柔らかい。
喉元から沸き上がる色鮮やかな泡は、私の意思でどのようにも造り変えられる。
方言を纏い、嘘をまぶし、さも重みがあるかのように味付けできる。
浅い泡は変幻自在、ゆえに私は、少しでも聞き手の耳元に心地良く弾けるように、
透明な泡を着彩する。

しかし、水槽の深奥からじわじわと姿を現す泡は。
堅く、重く、形を取らない。
黒く、闇の欠片のように、どろどろと扱いにくい。
それなのに、決まった鋳型に嵌められない。
私がどうにか形を与え、見る物に分かりやすく在れと手を加えても、
加えた瞬間にそれは「嘘」になる。
奥底から我知らず立ち上ってくる言葉は、ひどく繊細だ。
こうして書き表せることなど、まだまだ外輪を形容したに過ぎぬのだろう。


ことば。
心からの言の葉というものは。
表すのが本当に難しく、また伝えにくいものだ。

色々と知ってしまった、進みすぎた人達は頭が良すぎた。
熟考し過ぎて、そしてどんどんと水槽は歪(いびつ)に複雑になってゆく。
奥底からの泡が、浮かび上がってこれない程に。



2002年03月06日(水)
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