という感じで、何故か目立たない地味な存在に甘んじてはいながら、実は大変な功績を残す功労者であるのです。ですから先の記事でも申しましたように、氏はCリプトン社から表彰されて然るべきだと私などは思うのです。
と、あたかも「昨日の記事からの続き」のような書き出しを冒頭に置いておくと、慌てて過去記事の頁に行っちゃう人がいるかなあ、なんてことを考えてみた衛澤です。御機嫌よう。
さて、昨日書きそびれた昨日の話です。
自宅最寄り駅周辺に複数の用事があるので、そこへ出掛けなければならないという前提が先ずありました。
その用事というのは、一ツは自宅の火災保険の更新手続きと保険料の支払いを住宅管理会社で行うこと、もう一ツは来週の定期通院日に行く予定だった理髪店に予定を前倒しにして行くことです。保険の手続きは住宅管理会社から「更新に来てね」という郵便が届いたので忘れないうちに並びに面倒になってしまわないうちに済ませておきたかったし、理髪店はこれ以上髪が伸びてもさもさになるのがうっとうしくて耐えられなくなってきたので、さっさと済ませておきたかったのです。
それに加えて、制作中の小説のコンテ作業が今週に入ってから自宅ではすっとこ進む気配がなくへっぽこぴーでぷっぷくぷーな感じだったので、駅前周辺まで出て行くついでにそこにある某ドーナツ専門店に寄って、そこで気分を変えて食事がてらコンテを切ろうと決めました。
果たして、火災保険の更新と散髪とコンテ作業のそれぞれに必要な品を鞄に詰めて出掛けました。移動手段は単車で、一五分ほど走れば駅前に到着します。
先ず理髪店に赴き調髪と髭剃りをして貰いました。所要時間はいつもと同じ約三〇分。料金一五〇〇円也。そうして多少身姿がよろしくなってから(それでも髭面でTシャツに七分丈カーゴにサンダル履きと柄悪い感じなのですが)、住宅管理会社に向かいます。予め必要事項を記入しておいた火災保険更新申込書と更新料一万円也を窓口で渡すと、手続きは直ぐに済みました。
実は今年が更新時期であることなどすっかり忘れてしまっていたために更新料の準備がなく、実質「予想外の出費」となった一万円は、次回手術のための貯金から出すことになり、大変痛い思いをしております。でも払わない訳にはいきませんのでね。
それが済んでから、一昨年辺りに大変御世話になりました某ドーナツ専門店にまた同じ目的で向かいます。店舗前の邪魔にならなさそうな場所に単車を停めて入店。
折りよろしく一〇〇円セール中。指が汚れにくそうなドーナツを三ツを択び(コンテ用紙が汚れないように)ホットカフェオレを合わせて注文して、禁煙席の隅っこに場所を取ります。支払額五二〇円也。
六時間居座りました。カフェオレ四杯分(おかわり自由)。
何と書き表せばよろしいのでしょうか、ドーナツ専門店の片隅にぽんとすわった私は、それはそれはスムースに僅かにも滞ることなく、すらすらと書き進んでいきます。直径〇.五ミリメートルのシャープペンシルの芯がなめらかにすり減っていき、すり減った分が白い紙の上で確実に文字になっていきます。
私がコンテにいつも使っているのは、学生時代に書店で貰った■川文庫のノベルティのシャープペンシルです。書き心地がいいものを、といろいろな種類のシャープペンシルを試してみたり、多少高価なものを入手して使っていたこともありましたが、結局は随分昔に無料で貰った安いつくりのものに落ち着いています。私なんぞはお大師さん(空海和尚)ほどの書き手などではないのですから筆を択ばなくてはならぬ訳ですが、その場合も必ずしも高級品を択ぶべきとは限らないようです。
自宅で作業するとてんで集中力に欠けて、同じ六時間机の前にすわってみても一字も書けないこともめずらしくないこの頃だったのですが、昨日の私には次々と何かが降ってきたような何かが降臨したような憑依したような、そんな感じに頭が冴え、溢れる泉の如くイメージが湧きそれは適切な言葉となって筆先から出て行きまして、通常の三倍以上の速度と仕事量がもたらされました。「今日のおれは赤い彗星か!」などと自分で仰天しつつの作業。何このファストフードイズマイオフィス体質。
やがて陽が傾き西陽が強くなる頃に、かなりの量を書き進んだことだし、そろそろ帰宅して朝一番に干しておいた洗濯ものを取り込んでやろうと席を立ちました。沢山書けたので、大変とてもすごく非常に気分がよろしいです。うっはうはーな気分で退店して、店舗の前に立ちましたところ。
単車がない。
駅前周辺は放置車両取り締まりがとりわけ厳しい地域です。盗まれたのではなく放置車両として撤去されたのだと直ぐに判りました。邪魔にならないように停めたって撤去されるものはされるのです。
うろうろ探しまわることもせず、私はその足で交番に行きました。ちょっとだけ呪詛のようなものを呟いてアレな電波を軽く放射してから。やっておくとおかないとでは気の治まりようが違います。
行ったのは先月ケータイ落としましたと届け出たあの交番です。私は他人さまの容姿を憶えるのが大変苦手ですので応対してくれたのが前回と同じお巡りさんかどうか判りませんでしたが、お巡りさんの方は「また来やがったかこのずんぐり髭眼鏡」とか思っていたかもしれません。
そこで「放置自転車等保管所」の連絡先を教えて貰って、それから路線バスにでも乗って帰るかとバス停に向かいました。帰宅してからその保管所にうちの子そちらにいますかと問い合わせればいいだろうと考えながら。
私が住む地域というのは、端的に言えばど田舎でして、路線バスが一時間に二本しか走りません。しかも、私がバス停の時刻表を見たのが発車五分後くらいで、あと約三〇分待たないと次のバスが来ません。
歩イテ帰ッタ方ガ早イヨ。
こんな訳で、単車で一五分の距離を全徒歩で帰りました。とは言いましてもたいした距離ではありませんでして、今月に入って自宅トレーニングに切り替えるまでの約二箇月ほど、ほぼ毎日歩いていたコースですから、慣れた距離です。
しかし、ケータイ落としたり(しかも立て続けに二回も)、単車を持って行かれたり、更には素晴らしいタイミングでバスに乗り損ねたり、この絵に描いたような怒濤の不運は、明らかにおいし過ぎます。誰彼構わず話してまわって「ばーかばーか」とか言って貰いたくなるような、そんな素敵なできごと。笑って貰えればそれは既によろこび。
ビバおれのネタ人生!
胸の内でそう叫んでから私は自宅に向けて歩き出しました。やっふぅ!
帰宅までの所要時間は約四〇分。西陽の中を歩き続けると水垢離をしたようにシャツがぼとぼとになりました。ウォーキングのときにいつも身につけているiPodはこの日は持っていなかったので音楽を聴きながら歩くことはできませんでしたが、例によって無意識のうちに自分が歌っていました。この日の曲は「
アイスクリームの歌」でした。
帰宅後、「放置自転車等保管所」に電話で確認を入れてみると、うちの子はやっぱり保護されていました。所在が明らかになったので、心配はありません。単車がないと多少不便ではありますが、それだけです。書いたはずの原稿が失われることに比べれば、蚊に刺されかけた(刺されるまでもない)程度のことです。如何に秀れたもの書きでも、二度同じものを書くことはできませんから。でも火災保険更新料の一万円が出ていった後の「車両移動保管料」三五〇〇円也は、更に痛い。三五〇〇円あったら一週間は喰える。
ということは、一週間断食すればいいのか。
保管所は「平日のみ対応」らしいので、単車は週明けにでも引き取りに行きます。徒歩にて。保管所の近くまでは路線バスは走らないので。歩くと二時間くらいかかるかなあ。iPod着けて好きな音楽を聴きながら愉しく歩きます。「
wanderer」とかいいよね。旅人気分でね。
本日も締めに一曲紹介申し上げます。本日は
兄さんではなく
ミクさんの曲を。
タイトルは「無名の画家、無題の絵画」。
えーと、かようなことを申しますと御気分よろしくない方も沢山おられるのでしょうが、実のところ私はミクさんの声が苦手なんです。動画サイトに上げられているミクさんの曲を幾らか拝聴しておりますが、大抵が「如何にもデジタル」然とした声で(それがミクさんの声の魅力ではあるのですが)、また高いキイを歌わせているものが多く、そういうものを聴くと耳がキンキンするので、あまり好きではないのです。
しかし、この曲の―――例によって
F.Koshiba氏が調声なさったミクさんの声は可憐かつ芯の強さが窺える声で聞きやすく、また旋律も歌詞も「きゅん」っときてしまうもので、とても好きです。
思うことを思うさま書くことができる人でありたいなと、書き続けることができる人でありたいと、この曲を聴くと思うのであります。
さてもさても、F.Koshiba氏の言葉のセンスには切なささえ感じます。「笑顔と雨の色を溶いて」だとか「せわしいモノクロ」だとか、「寡黙な透明」なんて言葉は、そうそう誰にも容易く出てくるものではありません。