こんな時間に、アイスクリームが食べたい。
午前〇時半。店舗など悉く戸を閉ざしている頃。店舗だけではない。一般的な家庭なら、一日の業を終えて寝静まっている。街だって灯は落ちて、ぽつぽつと街灯が点るだけで、街から外れてしまったら街灯もまばらで、ときには不用心な人間を獲って喰おうという存在も徘徊していることもあると言う。陽が落ちる頃から出没するという「子獲り」だとか「赤マント」だとか呼ばれる存在の話を、幼い頃はよく聞かされたものだ。
人をさらっては消えて消えては現れて人をさらうというそれ等の存在を、見た訳でも信じていた訳でもないが、怖れるべきだとは思っていて、ぼくは夕刻には自宅にいてそれ以降は外に出ようとはしなかった。しかしそういった、見て確かめることもできない、実害もない妖の類いよりも、思い通りにならぬとなると誹ったり罵ったり場合によっては殴ったり叩いたりする人間の方が余程怖いと、その頃からぼくは思っていた。幼い頃を思い返すたびにぼくはこれを繰り返すのだが、ほんとうに厭な子供だった。
それはともかく、先に書いたのはぼくが子供の頃のことで、二〇〇〇年代も一一年めに入ったこの頃では、深夜〇時を過ぎたって煌々と明るい照明を灯して店舗は開いているし、開いているだけでなく営業もしている。街灯が一本もなく、月明かりしか頼るものがないような闇は探しても簡単には見つからない。「子獲り」や「赤マント」のような存在よりもっと怖い(らしい)都市伝説は指折り数えていたら間に合わないくらい沢山伝播していて、現代の児童や青少年はそれを熟知している(気になっている)から寓話を虚仮威しとしか思わない。
もっと、「闇」だとか「怖いところ」の範囲が、広い方がいいのにな。
何かを怖れているときの方が、人間は怪我や痛いめに遭うことを上手に避けられる。大胆は必要だが小心は不要なものでは決してない。「小心」と書けば中国語では「注意」の意味だ。何より、人にあらざる何かを怖れる心を、人間は持っているべきだと思う。
時刻は過ぎて、深夜二時半をまわろうとしている。この時間でも店舗は開いていて営業している。アイスクリームも硬貨を何枚か出せば買うことができる。ぼくがまだアイスクリームを食べていないばかりか買いに出掛けてさえいないのは、昔ながらに「怖いところ」の範囲が広いから、という訳ではない。断じてない。ないったらない。
と、こう重ねると重ねるほどうそっぽくなることを、ぼくは知っているつもりだ。
---------------------------------------
この文章は、書き出しの通り〇時半頃に「アイスクリームを食べたい」と思ってから書きはじめ、二時半過ぎに書き終わった。途中で動画サイトに寄ってDTMerの音楽を聴いたり、別のSNSの日記記事を簡単に書いたりもしたので、二時間まるまるかかって書いた訳ではない。
ぼくは昨秋から
TwitterというWebサービスを利用していて、思いついたことや感じたことを、その場でTwitterに流してしまうことが、最近では多い。この頁の更新頻度が減った理由の一ツと考えていいかもしれない。思ったことを不特定多数に向けて発信してしまうので、改めて記事として文章に起こす気がなくなってしまうのだ。
しかし、いま書いたものについては何故かTwitterで済ませる気にならず、めずらしくテキストエディタを起動してキイタイプで書くということをはじめた。しかし、日記記事として書くときとは違い、「主題」や「言いたいこと」や「核」というものがないままに書きはじめ、ないままで書き終えた。更には、一切推敲をしていない。つまり上の文章は、「思いつき」と「勢い」だけで書かれたものである。
底辺の末席にある者とは言え、文章を書いて金銭を得ることもあるのだから、そういう人間がそういうものを書いて不特定多数が閲覧できる場所に掲げておくのはよろしくないことだ、と幾らか以前までは考えていて、それがために更新が滞ることもあった。しかし最近は、がんばって書いたものもよし、テキトーに書いたものもよし、と考えている。
がんばって書いたものは読む方も幾らかがんばらないと読めなかったりすんのよね。
という風に感じるようになったからだ。そして、「文章を読みたいけれど難しいのは読めない。でも軽い文章なら読めるから読みたい」という状態にある人がある、ということを強く意識するようにもなった。(鉤括弧の中に「読みたい」を二回重ねたのは意図的に、です)
だからこれは、「軽く読めるもの」の練習とも言える。しかし「テキトーに書いたもの」、「簡単に書いたもの」は決して「無茶苦茶な文章」とは違うのだということは、常に意識しているつもりだ。
---------------------------
先程「上の文章……」という文章を書いているときに、変換候補に「
上野樹里」という人名が出てきてしまったのでついでに書いておこう。上野樹里さん主演の映画「
のだめカンタービレ」の劇中で、主人公のだめが通っている学校を、何と言うか御存知だろうか。
フランス・パリ市内にある音楽の名門、コン・ヴァト―――コンセルヴァトワールだ。
柘植久慶先生風の一文でした。これがやりたかっただけです。蛇足で申し訳ない。念のため申し上げておきますが、コンヴァトと略す場合に中黒(・←これ)は要りませんので、御了承くださいませね。あと柘植先生御免なさい。
蛇足ついでに。アイスクリームに「
濃厚旨ミルク」というのがあって、ぼくはこれが好きなのだけど、これを打ち込んで変換するときに真っ先に「納稿」って出てきちゃって現実逃避に失敗したみたいな何とも言えない気持ちになりました。つもりだ。