私が性別適合手術のために二回めのバンコク(タイ)へ渡ってから、もう少しで一年になります。当初の予定では二〇一〇年正月のいま頃は既にすべての手術を終えて念願の温泉旅行もしくはスーパー銭湯にでも行って長湯を愉しんでいたはずなのですが、諸般の事情(主に持病の具合いが著しく不安定なため)により、最終となる三回めの渡航が無期延期状態です。
三回めの手術をしないことに決めた訳ではないので、左腕のトンネルのケアは続けなくてはなりません。一年も腕に穴が開いていますともうすっかり慣れてしまいまして、他人さまが見て吃驚なさる以外にはさして生活の中で不都合はありません。
半袖で生活するときには挿入しているカテーテルの端っこをサージカルテープなどで固定しておかないと家の柱だとか扉だとか、服の袖口や首繰りなど、またほかにも思わぬものに引っ掛けられて、穴の入口が引っぱられて裂けてしまうんじゃないかという恐怖を味わうことにもなりかねませんので、もし今後この手術を受けるという人がおられましたら、御注意なさいませね。わたしゃーそんなめに遭ったことはございませんが、可能性としては充分にあり得るので。
カテーテルはやわらかい素材なので引っ掛かっても曲がってくれますが、穴の入口の際を引っ掛けられたりしたら穴が裂けることもあります。きっと。だって痛かったもの(怖い話)。
これが二〇一〇年一月初旬現在(術日から約一一箇月)の状態です。
帰国した頃(術日から一週間)は穴の周囲は縫合糸でまつり縫いにされているしかさぶたはごつごつ重なっているし、穴の内側はまだ不安定で洗浄(一日二回行う)のたびに皮膚のようなものが中から出てきて、せっかく移植した皮膚が剥がれちゃったんじゃないかと冷や冷やしたりもしましたが(実際は皮膚ではなく、手術の間に出てくる不要物なので心配無用だそうです)、二、三箇月もすれば安定して、清潔に保つことと何処かに引っ掛けてしまわないことに気を付けていれば、手術以前と変わらぬ生活が送れるようになります。
気持ちとしては最早や、生まれたときからこの穴はありました、みたいな感じです。穴という空間もまた自分の身体です、というような。カテーテルは流石に自分の身体と思われませんが、ま、眼鏡くらいの厄介さです。たいして邪魔にはなりません。毎日二回ずつ煮沸消毒して、腕の穴には潤滑ジェルを注入して、というケアは少々面倒ですが、女性の月経よりは面倒さはずっとましです。
潤滑ジェルの話が出たのでもう少し。冬場は空気が乾燥していてそのためお肌も乾燥しがちですが、腕の穴もジェルをけちると乾燥してカテーテルとの摩擦が大きくなって、ひきつって痛いことがあります。沢山ジェルを使うと流れ出してしまってこれも大変ですが、丁度いいところを早く見つけて上手にケアしましょう。
と、対象者が著しく少ない講座でした。