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2008年10月29日(水) シアン化合物について

化学式 KCN で表される代表的なシアン化アルカリ化合物で、炭素と窒素は三重結合を形成している。 白色の粉末状結晶で潮解性があり、水に易溶、メタノール、エタノール、グリセリンに少溶。水溶液は強アルカリ性を示す。(溶解度は文献によっては41.7g/100g(25℃)という値が見られる。表には出典からのものをあげている)

乾燥状態では無臭だが、潮解により空気中の二酸化炭素と反応し、シアン化水素を放出しながら炭酸カリウムに変化するため、シアン化水素による特徴的な臭気を発する。特に日光に当たる状態では反応が進み易いため、空気に触れないように、日光に当たらないように保管する必要がある。シアン化ナトリウムと同じく、遷移金属と水に可溶なシアノ錯塩を形成する性質をもつ。この反応のため、銀や銅のさび落としに使うことが出来る。また、銅貨を用いたシアンの簡易検出法の原理でもある。


[編集] 利用分野
シアン化合物はカリウムとナトリウム塩が主に利用され、日本の場合シアン化ナトリウムでは年間約3万トンが生産されている。

冶金:青化法(1890年開発)による低品位鉱や廃材からの金、銀類の抽出。
鍍金:電解めっき法のひとつである青化浴は、金、銀、銅、亜鉛、真鍮、カドミウムなどに古くから利用されている(シアン化物を使わないジンケート浴、酸性浴への置換が進んでいるが、なお主流)
写真:銀板写真の銀メッキや青写真。現代のフィルム製造や現像にはシアン化物はほとんど使われていない。
漁業:川や海にシアン化物を流す「毒物漁法」。当然環境に有害だが、国によっては観賞魚捕獲等に多用されているという。
分析試薬:硬度滴定などで、妨害イオンをマスキングするために使用される。
合成:樹脂や医薬品、農薬の合成材料や安定剤として需要がある。
なお、フィクションなどでも含めて毒物として有名であり、一般的な物質であるかのように思われる傾向があるが、産業的にはシアン化ナトリウムの方が利用量が多く、工場などにありふれている。


[編集] 毒性
人体に有害な毒物で、経口致死量は成人の場合150〜300mg/人と推定されている。体内でチオシアン酸に代謝され、30〜60mg-CN/hであれば、肝臓で解毒できるとされる。慢性中毒を起こす最小中毒量(TDL0)14mg/kg、許容濃度 5 mg-CN/m3。長期又は反復曝露による甲状腺、腎臓、肝臓、脾臓、中枢神経系の障害のおそれがある。 (参考: ラット経口 LD50 5〜10 mg/kg)。

胃酸により生じたシアン化水素が呼吸によって肺から血液中に入り、重要臓器を細胞内低酸素により壊死させることで個体死に至るとされる。摂取した場合の症状としては、めまい、嘔吐、激しい動悸と頭痛などの急速な全身症状に続いて、アシドーシス(血液のpHが急低下する)による痙攣が起きる。致死量を超えている場合、適切な治療をしなければ15分以内に死亡する。死因は静脈血が明赤色(一酸化炭素中毒と同じ)などから判断できる。

また、皮膚から吸収することによっても中毒を起こす。これは、シアン化カリウムは水溶液中で電離してカリウムイオンとシアン化物イオンとなるが、このシアン化物イオンは一酸化炭素と同様にヘム鉄に配位結合して酸素との結合を阻害することにより、呼吸による酸素の供給ができなくなるためである。また、シトクロムcオキシダーゼの鉄と結びつくという説もある。青酸化合物の毒性機序には未解明な部分が多く、現象に説明がつかないこともある。

水生生物への毒性が非常に強く、水質の環境基準では 検出されないこと(定量限界0.1mg/L未満)、一律排水基準では 1mg/L とされている。分析法としてはJIS K 0102に 吸光光度法とイオン電極法が規定されているが、いずれも蒸留操作が必須で熟練と操作時間を要する。そのほか、自動分析装置が各社にて開発されている。


[編集] 治療法
塩類の摂取による中毒は、シアン化水素ガスの吸入によるものに対し進行が遅く、救命できる可能性が高い。

まず医療機関に連絡する。シアンによる中毒であることを忘れずに伝える。救助者が患者の呼気を吸わないように対策を行ってから開始する。当然、マウストゥマウスの人工呼吸は厳禁。摂取量が少なく、患者に意識があるなら、吐かせて胃洗浄を繰り返す。用意があるなら、酸素吸入と亜硝酸アミルの吸入(15秒嗅がせ、15秒空気または酸素を吸入させる措置を、5回繰り返す)を行う。または亜硝酸ナトリウムを静脈注射するが、これは原則として医師の処置による。(シアン化合物を扱う事業所では、小型酸素吸入器と亜硝酸アミルの試薬を用意しておくべきかも知れない)


[編集] 廃棄処理
シアン含有廃液の処理法としては、高濃度では電気分解法や燃焼法、中・低濃度ではアルカリ塩素法のほか、オートクレーブによる熱加水分解法、鉄・亜鉛塩による沈殿法(紺青法・亜鉛白法)などがあり、一般的にアルカリ塩素法が用いられる。

アルカリ塩素法
一次反応:水酸化ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムによりpH10〜10.5、ORP+300〜350mVとし、シアン酸ナトリウムと塩化ナトリウムに分解する。
二次反応:塩酸によりpH7.5〜8.5、ORP+600mV超とし、二酸化炭素、窒素、塩化ナトリウムに分解する。
共存金属イオンによってはシアノ錯体形成により効率が低下する(銅・亜鉛は容易、ニッケル・銀は困難、鉄・コバルト・金は不可)
紺青法・亜鉛白法
鉄や亜鉛イオンを加え、シアン化物イオンと難溶性のシアノ錯体を形成、沈殿分離させる。薬品・設備ともに安価だが、沈殿したシアノ錯体含有スラッジの処分が問題となる(漏洩防止の緊急処置用としては有効)
日光分解
少量の鉄シアノ錯体溶液などはほうろう引きの浅いバットに入れ、数日間直射光に晒すと分解して水酸化鉄になる。塩化鉄溶液を滴下して紺青が生じなければ、分解終了。

[編集] その他
ミステリー小説に関連する書籍などでは、経口摂取でなければ毒性はないとしているものがあるが、実際には経口・注射の両方で同程度の致死量である。また、胃酸と反応して発生するシアン化水素が中毒の主体であることから、青酸カリを舐めても、直後に口内を洗浄すれば毒性を発揮しない、あるいは胃を完全に切除した場合、青酸カリを摂取しても死に至らないとする説がある。しかし、粘膜からは皮膚以上に吸収されるため、危険である。

摂取して胃酸と反応するとアーモンドまたはオレンジ臭、アンズ臭を発するという。ここでいうアーモンド臭とは、収穫前のアーモンドの臭いであり、製菓に用いるアーモンドエッセンスの甘い香りと異なり、甘酸っぱい香りである。

青酸化合物による中毒死体の死斑を一律に、ピンク色であるとする解説もあるが、実際には青酸塩類による中毒の場合にはそういった所見はない場合も多い。青酸ガス中毒の死斑であればピンク色というのは確かだが、青酸カリなどを服用した場合には体表面に特徴的な死斑が現れない場合も多く、見分けるポイントとはなりにくい。なお解剖時に胃が鮮紅色となっている場合は多い。

長期間空気中に置いておくと毒性を失う。これは空気によって酸化し、薬剤の一部が炭酸カリへと変化したためによるもので、歴史上、青酸カリによる毒殺の事例は多数あったが、保存法を知らないために毒性を失った物を使用したことによる毒殺未遂もそれ以上に発生している。有名な事例としては、グリゴリー・ラスプーチンが大量の青酸カリを盛られたにも関わらず平然としていたというものがある(病気で胃酸が薄かったためとか、ワインの酸により飲む前に揮散したとする説もある)

銀の食器に入れたスープや酒に青酸カリを入れると、曇った銀器の表面が光ることで毒が盛られていることを見抜けるといわれているが、砒素による黒変ほどには実用性があったか疑問。


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