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この物語は以前、某有名サークルさんが銀英伝の小説を同人誌掲載用に募集していた時に応募しようとして・・・・・見事頓挫したものであります(汗)。まあ今にしてみれば、それで良かったような気がしますが。何せ原作中、キャラクター的には結構目立っていたにもかかわらず、同人界ではどちらかと言うとマイナーか、お笑い役に回る事の多いキャラが主役だったのですから。それに文体も合いそうにないし・・・。 こういうレンタル日記を借りたこともあり、こーなったら過去の恥は掻き捨て! とばかりに発表させて行きたいと思います。ちなみに、一応はシリアスでありますが、原作至上主義の方々に言わせれば、「パラレルワールド」と受け取られても仕方ない設定になっております。何せ、同盟の人間と帝国軍人が、オーディンで知り合うと言う無茶な話ですから・・・(苦笑)。 *********************** 少年は、父が好きだった。 遠い戦地から戻って来た彼を出迎えた時、満面の笑顔と共にそのたくましい両腕で抱きしめられるのが、たまらなく大好きだったのだ・・・。 銀英伝パロ オーディンの空の下(1) 「・・・いいですか、閣下。何度も言いましたが、お相手は怪我人なのですから、あまり気を使わせることはございませんよう」 病院へ向かう車中、心配性の副官にそう囁かれながら、男は不機嫌な表情を隠しきれずにいた。それも、珍しく黙りこんで。 同僚が戦地で思わぬ大怪我をし、このオーディンに帰って来たのである。皇帝陛下から帯びた任務は何とか果たし終えはしたが、彼は2度と取り戻せないものを失ってしまった。軍人としては決して避けることの出来ない事態ではあるものの、将官としての日々が永くなってしまった今では、その認識を忘れそうになる───そんな矢先での事件だったのだ。 「くれぐれも、『自分が志願したのを横取りしたバチが当たった』などと言う事はおっしゃられますな」 「・・・ほう、その手があったか」 やっと話し出したかと思うと、その口調には常になく毒が混ざっている。 「閣下・・・」 「心配するな。これでも俺はデリカシーはある方だ。間違っても『今は義手の良いのが出回ってるから腕の1本や2本、なくしたところで気に病むな』とは言わんさ」 まるで、見舞いに行く前に言いたいことを全部吐き出してしまおう、と言わんばかりの暴言だ。 だが男の部下達はそれらの言葉が、決して相手を傷つけるために発せられたものだとは思っていない。変に気を使った方がかえって、相手を追い詰める事があるのだ。彼なりに、怪我人のことを慮っているのだと、ここに同乗している幕僚たちには分かっている。 ちなみに、男が先ほどから黙っていたのは、怪我をした同僚に思いをはせていたからでも、かけるべき言葉を考えていたからでも、決してない。 「どうも、病院って奴は性に合わん・・・」 銀河帝国でも並ぶ者がないくらい戦火の中に身を投じて来ていながら、1度として大怪我に見舞われたことがない男。その彼が、まさか病院嫌いとは。いや、注射嫌いか。 ・・・あまりにそぐわぬ事実に、つい微笑ましさを感じずにはいられない、幕僚たちであった。 車は何の支障もなく、軍病院に到着した。 静かに正面玄関前につけられた車内から運転手がすばやく走り出て、主たちのためにドアを開ける。 次々に車外へ降りる部下達を尻目に、男はまだ車内に留まっていた。少しでも病院にいる時間を短くしよう、という子供っぽさの現われなのだったのだが・・・。 「?」 その時、彼の目に不可解な風景が映る。 1人の男が、泣き叫ぶ少年を抱きかかえて走り去ったような気がしたのだ。 「病院嫌いはどこでも変わらんようだな・・・」 そう呟いて、ふと首を傾げる。これが病院へ駈け込んだと言うのなら、別におかしくも何ともない。だが男は、病院から外へと走って行ったのである。 それに───なにより彼には、泣いていた少年の方に見覚えがあったから。 一体何が起きているのか、と怪訝に思っていた時だった。 「き、貴様何をする!?」 「悪いね、緊急事態なんだよ」 外で部下達がもめている声がしたかと思うと、いきなりドアから1人の男が飛び込んで来た。 緑色の目をした、なかなか精悍な顔つきのその男は、だが見覚えのない人物である。着ているのがラフなジャンパーと言う辺り、どうやら軍人でもなさそうだ。 「ありゃ、まだ人がいたのか」 そして、彼が口にしたのは明らかに帝国語ではなかった。 「・・・悪いけど、あんたを降ろしてる暇はないんだ。そのまま乗っててくれ」 言うが早いか男はドアを中から閉めると、いきなり車を急発進させてしまったのである。 「閣下ーー!」 残された部下が悲痛な悲鳴を上げるのを、だが男は他人事のように愉快な気持ちで見送った。 言わば車ごと埒されたにもかかわらず、軍人である男は動じる事なく相手に尋ねた。 「・・・何なんだお前は。軍人の車をカージャックとは、あまり利口なやり口じゃないぞ」 それも、仮にも上級大将の車をだ。鋭利目的の誘拐か、単に車を拝借したかっただけなのかは知らないが、このままではただで済むはずもない。 もっとも、それほどの地位の者があっさり車を奪われたとなると、いい笑い者になるのも否めないが。 「用が済めばすぐに返すって。別にあんた、急ぎの用でもなかったようだし」 道路を猛スピードで走らせながら、緑色の目をした青年はニヤリと笑う。どうやら男が降りるのに躊躇していた事は、お見通しらしい。 「急ぎ? 一体何があったって言うんだ?」 「・・・知り合いの坊主が、誘拐されちまったんだよ。だから後を追ってる真っ最中さ」 その言葉に、男はやっと思い出した。先ほど見かけた少年が、誰の息子であったかを。 「じゃあさっきのは、やっぱりワーレンの息子か!?」 それからの男の行動は迅速だった。手元にあった電話で、どこかへと連絡をとり始める。 「・・・憲兵本部か? 緊急事態だ、お前らのボスを呼べ。今すぐだ。・・・そうだ、ケスラーをだ、とっととしろ!」 ───緑色の目をした青年の表情に、困惑の色が浮かぶ。 手っ取り早く子供を取り戻そうと、この車を掻っ攫ったまでは良かったが、乗っていた軍人はどうやらとんでもない人物のようだ。帝国軍の上級大将であるはずのワーレンとケスラー憲兵長官を、こともあろうに呼び捨てにするとは、普通ありえない。よほど肝が据わっているか、それとも彼らと同等の地位を手中にしているかの、どちらかでない限り。 ものすごく、イヤな予感がする・・・。 一見、粗野で乱暴な下士官風のこの男の正体を計りかねて───ローエングラム新王朝になってからの新しい軍服の判別法を彼はまだ知らなかったから───青年は結局、直接聞くことにした。 「聞き忘れていたんだが・・・あんた何者なんだ?」 「ビッテンフェルト。フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトだ。お前こそ何者なんだ。何でワーレンの息子を知っている?」 ビッテンフェルト上級大将・・・!? 良くも悪くも猛将と称えられる、臆病とは無縁の、ローエングラム新王朝の重鎮中の重鎮───!? 「・・・俺はフェザーン商人・イワン・マリネスクと言う者だ・・・」 冷静を装ってそう応えた青年であったが、心の中は困惑の嵐が吹きあれている。 何故なら、彼の本名はイワン・マリネスクなどというものではなく。 書類上では戦死扱いとなっている同盟軍元中佐オリビエ・ポプランこそが、それであったからだ。 ≪続≫
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