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そして始まる日々(5)JOJO 広瀬康一 *とりあえず、最終章です。 こう言ったことを考えつつイタリアへ旅立った康一ですけど、ジョルノに出会ってしまったことははっきり言って、トラブル以外の何者でもなかったでしょうねえ。 ・・・・ちゃんと日本に帰りつけたんだろうなあ・・・原作じゃ何も書いてないらしいけど(汗)。今度はその辺り、勝手に妄想してみようかなあ。 ちなみに。康一の公式設定での恋人である由花子ちゃんが出なかったのは、ちゃんちゃん☆ の主義です(きっぱし!)。どうにも納得できないんですよお、康一に誰でもない、由花子って彼女がいるってのはあ!(涙) ところで、あちこちのJOJOのHPを見て回った時、気になることが。 「何で承太郎は仗助じゃなく、康一にイタリア行きを頼んだんだ?」って如何にも不本意っぽく、如何にも訳が分かりませんって感じで書かれていたサイトさんが、どうしてこうも多いんでしょうか? 仗助の性格やスタンド能力云々でなく、承太郎が「ジョースター一族とは何の関係もない」康一に頼まざるを得なかったのは、ちゃんとした深刻な理由があったはずなんですけどねえ。確かに、文字としては全然説明されていないんですけど。 原作の第3部をきちんと最初から読めよ、そう言いたくなります(汗)。 ******************** 杜王グランドホテルでの会合があった、翌日の放課後。 僕は岸部露伴先生の家へと向かっていた。手には杜王町でもおいしいって評判の、ケーキを持って。 いきなり訪ねてもよくないと思ったから、露伴先生には昨日のうちにあらかじめ電話で連絡をしておいた。「露伴先生を見込んで、ぜひとも頼みたいことがあるんですけど」って。 露伴先生はそれは機嫌よさそうな声で、即座に訪問を了承してくれたんだけど、その後ろで「先生、明日は締め切りが・・・」とか何とか言う声が聞こえたのは・・・気のせいじゃないよね? ・・・後で、何か手伝えることがあったら手伝った方がいいかもしれないなあ・・・。 露伴先生の家に到着して、早速チャイムを鳴らそうとしたら、いきなりドアが開いた。 「し、失礼しました〜!!」 ほとんど転がるように出てきたのは、サラリーマン風の男の人。 あれ? この声って、昨日かけた電話で聞き覚えがあるような・・・。 からくもドアの直撃だけは避けて、彼が大慌てで走り去っていくのをただ呆然として見ていた僕に、静かな声がかけられたのはその時。 「やあ、康一くん。待ってたよ」 すこーし不機嫌そうな顔を、無理やり我慢しているような笑みの露伴先生が、登場だ。 何だかこういう顔って、変に迫力があって恐いんだけど。 「・・・こんにちわ。一体、何があったんですか? 今の人は?」 「たいしたことはない。連載雑誌の担当者だよ。締め切り間際だからって、僕が君に招こうとするのを止めようとしたから、ちょっとね」 「何ですかああ! その『ちょっと』って言うのはあ!」 いきなり胃が痛くなるようなこと、してほしくないんだけど。今度から僕まで、担当の人に恨まれかねないじゃないか。 「・・・どうも誤解があるようだね。大したことはやっていないよ。向こう1か月分の原稿を全部カンペキに仕上げて、丁重に叩き出しただけだから」 ───一応平和的な解決を見たみたいで、僕は心底ホッとした。 しかし・・・1か月分を一晩で仕上げるなんて・・・さぞやあの担当者の人、驚いただろうなあ。それともビビリまくったかも。僕も一度見たことあるんだけど、仕事中の露伴先生って、鬼気迫るものがあるんだよねえ・・・。 「それで、一体僕にどんな用があって来たんだい? 君の方からご指名なんて、珍しいじゃないか。僕としては嬉しいけどね」 場所は変わって、家の中。露伴先生は持ってきたケーキをお皿に盛り、香りのいい紅茶を僕に煎れてくれながら、早速切り出してくる。 「えーと、それはですね・・・」 何と話を始めようかと考えていたら、何時の間にか彼もソファーの向かい側に腰掛け、おもむろに言った。 「ま、大体の事情は分かってるよ。昨日君は承太郎さんに杜王グランドホテルへ呼び出されて、何事かを頼まれたんだろう? 『それ』関連だってね」 「え、ええ、そうなんですけど、何で・・・・」 「『何で分かったのか』かい? 昨日、あのくそったれ仗助が、あほの億泰にぶつぶつ愚痴っていたのを、たまたま聞いただけだよ」 露伴先生・・・相変わらず口が悪いなあ・・・☆ 「僕としては、あいつの不機嫌そうな顔を見ているだけで溜飲が落ちたけどね。・・・しかし、それで把握したのは、承太郎さんの用件とやらは意外に平和的で、しかし一般人にはできそうにない秘密裏なことだってことだ。彼の性格上、危ない用件なら他人に任せるよりは、自分でやるだろうし。そして、あのくそったれ仗助の『クレイジーダイヤモンド』の能力は確かに脅威だが、髪型のことをけなされるとキレるような性格では、行く先々でトラブルを起こしかねない。それに比べれば、君の穏やかな性格なら、どこへ行っても通用しそうだ。『エコーズ』なら、射程距離も長いからね。さすがは僕の親友だ、と言うところだろう」 これって・・・僕のことを褒めてるのか、仗助くんのことをけなしたいのか、あるいは露伴先生自身が自慢したいのかよく分からないよ。・・・全部、かも知れないけど。 「だが、さすがの僕も分かったのはそこまでだ。僕としては直接君から正確な情報を得て、一刻も早く知的好奇心を満足させたくて、うずうずしてたんだ。そしてそれに、どのような形で僕が関わるかも、ね。───康一くん、僕に頼みたいことと言うのはどんなことなんだい?」 ああ・・・また変にわくわくしちゃってるよ、露伴先生。 僕が先生に頼みたいことって、彼の言う『知的好奇心』を満足させてくれるのかなあ? とはいえ、仕方がないから僕は昨日承太郎さんに頼まれたことを全部、露伴先生に話すことにした。もちろん他言無用だと、前置きした上でだけど。 こうやって露伴先生に説明することは、実は承太郎さんにも了承済みだ。下手に隠し事をしたらヒネて協力してくれないか、ものすごい彼の行動力で余計なことまで探られるのが、明白だったから。ちなみに、今日こうやって持ってきたケーキの代金も、承太郎さんもちだったりするんだよね。 露伴先生は珍しく、最後まで口を挟まないで僕の話を聞き終えた。 「・・・なるほど。つまり君は、僕の『ヘブンズドア』で、イタリア近辺の言語を理解できるようにしてほしい、ということか」 だけど、僕が用件を切り出す前にさっさと結論を出してしまうのは、いつもの露伴先生らしいよね。 推理は見事あたってるけど、さ。 「しかし・・・承太郎さんもどうせなら、僕に頼んでくれたらよかったのに。イタリアなら僕はよく旅行に行ったことがあるし、日常会話程度なら言葉も理解できるんだよ。もちろん『ヘブンズドア』に頼らなくてもね」 ───それは初耳だ。 でも言われてみれば部屋の本棚には、イタリアに関する本が結構ある。中には英語読みじゃ読めないタイトルの本まで。あれって、イタリア語で書かれてたりするのかな? 「もっとも、僕は他人とコミュニケーションしろ、なんて死んでも嫌だからね。・・・よく分かったよ。ほかならぬ親友の頼みだ。僕の『ヘブンズドア』で、イタリア近辺の言葉を理解できるようにしてあげよう」 ・・・何だかあっさり引き下がったなあ、と思ったのは考えすぎだろうか?? でも、せっかく引き受けてくれたんだから、早速書いてもらった方が良いに決まってる。 「じゃあ、お願いします」 再度頼むと露伴先生は小さく頷いて、紅茶のカップをテーブルに置いた僕に向かって、スタンド能力を発揮させた。 「ヘブンズ・ドア!!」 『ピンクダークの少年』に似た少年が、目の前に現われたかと思うと同時に、すうっ、っと意識が薄れ。 ───気がついたら僕は、ソファーで寝そべっているところを露伴先生に真上から覗き込まれていた。 「終わったよ。とりあえず、イタリア語の理解度を試してみるかい?」 言って彼が差し出したのは、さっき見た『英語じゃないタイトルの』本。 露伴先生のスタンド能力を疑うわけじゃないけど、何となく恐る恐ると言う感じで僕は本に目を落とす。 「う・・・うわあ・・・」 読める。さっきまで分からなかった文字が、ちゃんと理解できるよ。露伴先生の『ヘブンズドア』ってすごい! 「それはイタリア語がかなり分かる人間じゃないと、読みこなせない原書なんだ。どうやら成功したようだね」 「ありがとうございます!!」 僕は本を露伴先生に返す。 その本を戸棚に戻してから、露伴先生は僕の方を振り向いたかと思うとにんまり、って感じで笑いかけて来た。 「さて。僕のスタンド能力を利用させてやったんだから、君にも僕に協力する義務が出来ってわけだな」 ・・・そら来た。 ケーキを持ってきたぐらいで、露伴先生が納得するわけがないなって分かってはいたけど、ちょっと腰が引けちゃうな。だって、何を頼まれるか、予想が出来ないんだもの。 「別に大したことじゃあないさ。これを読んでもらえないか、って思ってね」 そう言って差し出されたのは、1束の書類らしきもの。僕は拍子抜けしたような気分になって、何のためらいもなく目を通したんだけど。 ───その「書類」の正体に気づいた時、僕は正直言ってドキドキ言ってる自分の心臓を静めることに躍起にならずにはいられなくなったんだ。 何でって・・・。 「露伴先生・・・これ『ピンクダークの少年』の原稿ですよね・・・?」 「ああ」 「だけど僕・・・この話まだ、雑誌で読んだことないんですけど・・・」 「そうだろうね。担当者にもまだ渡してない、2ヶ月先に掲載予定の原稿だから」 「ちょっと待てええっ! そんな大切なもの、ポンポン他人に見せていいんですかあああっ!?」 ───つまり、僕が見せられたのは門外不出、担当者さえ読んだことがない超・最新作なわけで。 極端な話、日本中・・・いや世界中どこを探してもこのストーリー展開を知っているのは原作者である露伴先生と僕だけ、ってことになるんだ。 ・・・とんでもないもの、見せてくれちゃってるよこの人・・・☆ 「他人じゃあないだろう。君は僕の親友なわけだし。それに君の性格上、他人にバラすとも思えないしね」 「そ、そりゃあ誰にも話すつもりはないですけどお・・・」 「・・・まあめったにあるわけじゃないが、僕の原稿に誤字脱字があってはならないからね。君にはそのためのチェックをしてもらいたいんだ」 露伴先生のそのもっともらしい言い草が、だけどその時僕の心にすとん、と落ちた。 ・・・誤字脱字、だって? これ以上ってないほどの完璧主義のはずの、露伴先生が? そりゃあ露伴先生だって人間だから、失敗ぐらいあるだろうけど・・・そう簡単に他人に対して、そう言う「弱み」にもなりかねないものを、この人が見せたがるだろうか? まあそれでも僕に対しては、「親友」呼ばわりするだけあって他人に対するよりは、色々な表情を見せてるみたいなんだけどさ・・・。 そんな先生が、言葉を変えれば「屈辱的」とも思えることを僕に頼んで、何の得があるって言うんだろう? 以前、生原稿を盗み読み「させられた」時は、単に「ヘブンズ・ドア」で僕らのデーターを読みたかったからだったけど。 まあ僕にとっては、すごく「ラッキー♪」って気はするけどさ・・・。 ───その時、ふいっと僕の心によぎった1つの考え。 「露伴先生・・・ひょっとして僕の昨日の行動、読んだんですか?」 無言。 だけどそれは、肯定と同意語で。 「・・・僕が変に悩んでて、承太郎さん相手に愚痴ったの、知ってたってわけですか・・・」 「別に、読もうとして読んだわけじゃないよ。つい目に入ったって、ただそれだけなんだ。僕が意識して、君のプライバシーを読むはずないだろ? 君がそういう行為が大嫌いだってことは、僕が一番良く知ってるんだから」 珍しくおたおたと言い訳をする露伴先生に、僕はやっと納得できた。 誰よりも早く未発表の生原稿を、チェックと偽って僕に見せてくれようとしたその理由。 ちょっとだけくすぐったい気がするけど・・・露伴先生なりに、僕を励ましてくれようとした、ってことなんじゃないだろうか。 露伴先生の性格云々はともかくも僕が、彼のマンガの大ファンだってことを知っていたから。そして、それ以外での励まし方を、きっと知らないだろうから・・・。 ・・・まさかとは思うけどこの原稿、僕が「ヘブンズ・ドア」をかけられて意識を取り戻すまでのわずかな間に、描き上げたとか言わないよね? だけど、『向こう1か月分の原稿を全部カンペキに仕上げて』って言ってたしなあ。 「・・・じゃ、そういうことにしておいて・・・でもいいのかなあ? 間田さんが聞いたら、羨ましがること請け合いだと思うけど」 それ以上考えるのが恐くて、この話をこんな言い方で打ち切ったら、露伴先生はいつもの自信満々な表情に戻ってのたまった。 「羨ましがる奴は勝手に羨ましがらせておくがいいさ。康一くんは仮にもこの僕の親友なんだ、このくらいの特権は当然だよ」 特権ねえ・・・いつもは災難の方が、多いように思えるけど。 けれど、彼独特の照れ隠しだって何となく分かるから、僕は苦笑とも、照れ笑いともつかない表情をするのが、精一杯だった。 その後。 露伴先生は以前海外旅行へ行った時の思い出を、あれこれと話してくれた。 ちょっと眉つばな「奇妙な物語」もあったけど、暖かい紅茶の入ったカップを片手に聞く話は、結構面白かった。 「まあ君みたいな現代っ子が楽しむなら、フランスのディズニーランド辺りがお似合いだろう」ってコメントを付け加えて。 こうして聞いてると、露伴先生は人と話をするのが嫌いとは、そんなに思えない。どちらかと言うと喋りたがりなような気がする。仲が悪いって自他共に認めてる仗助くんとかを、それこそけちょんけちょんに言い負かすのが好きみたいだし。 人付き合いが嫌いって理由で、ずっと1人でいた露伴先生。そんな彼の聞き役になってる僕は、そういう意味では役に立ってるのかな? ・・・ちょっとだけ、そんなことを考えた。 「よいしょっと」 誰にともなく、僕はそう気合いを入れて、大きな旅行用カバンを持ち上げて搭乗ロビーへと急ぐ。 僕がこうしてイタリアへ行くことで、何か今までとは違った出会いが待っていたりするんだろうか? 僕でなければ解決できない事件があったり、するんだろうか?(こっちは出来れば遠慮したいけど) とりあえず、僕は今日、イタリアへと旅立つ。期待と不安、その両方を胸の中にしまい込んで。 《終》
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