ちゃんちゃん☆のショート創作

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茂保衛門様 快刀乱麻!(3)−1 外法帖
2002年03月15日(金)

*「外法帖」の火附盗賊改トリオ以外、全然出て来ないとヤキモキしておられる方。心配する事はありません。実はちゃんちゃん☆ もなかなか「外法帖」メインキャラを登場させられないので、ヤキモキしてる最中であります(苦笑)。出したいのはヤマヤマなんですけどね、とりあえず「謎解き」モードにしている以上、伏線を張らない限り話を先に進められないもので・・・。ああ、やっぱり長丁場みたいだなあ。CDドラマ発売までに、せめて「推理編」へ到達できればなあ、と思ってますけどね。(ちなみに今のはまだ「事件編」)
 でわ。

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茂保衛門様 快刀乱麻!(3)


 ───そうして。
 正式にあたしたち(火附盗賊改)が今回の事件を引き受けたその日のうちに、焼死体の身元が判明したわ。
 元々着衣等から裕福な町人だろう、ってことは見当がついていたんだけど、何とか燃え尽きずに焼け残っていた薬籠(やくろう)の細工が、きっかけになったの。
 どうやら男は浅草の小間物問屋、岸井屋の主・又之助。飼い猫に一月前引っかかれた爪痕が顎の辺りに残っているはずだ、との申し出があって、それが決定的な証拠になったってわけ。

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 とりあえず死体を引き取ってもらうためと、被害者が日頃怨みを買うような人間だったどうかを確かめるべく、又之助の妻と小間物屋の番頭を役宅へ呼び付けることにした。
 彼らはまるで落ち着きがなかったわ。・・・ま、それはそうでしょうね。ここは「送られたら白状しない限り生きて出られない」なーんて皆から怖がられている、噂の火附盗賊改方役宅だもの。それに、もともとあたしたちって町人とは縁が薄いはずなのよね。町民が普通に暮らしてれば、呼び出されるとしても町奉行所の方だから。
 加えて、どうやら又之助と思しき人間が焼け死んだ、なんて聞かされてご覧なさいな。生きた心地なんてしないに違いないわ。

 とりあえず死に顔を確認してもらうことになったんだけど。
 たまたま他の人が出払ってて、あたしと御厨さんだけが立ち合うことになっちゃって。死体にかけられた筵(むしろ)を御厨さんがめくり上げたと同時に、あたしは視線を逸らして廊下へと出た。
 まあ、家族の悲惨な泣き声とかを聞きたくない、ってこともなくはなかったんだけど・・・どうも事件当時のことを、思い出しちゃうのよね。あの時の焼け爛れた人間の匂いとか、生々しくもおぞましい色合いとか・・・そう言ったのが、さ。いくら仕事で見慣れてるったって、さすがに焼け死んだ直後の死体、って言うのはそうそうお目にかかった事なかったから。あの時ぐらいよ、はっきり言って。
 これじゃあしばらく御飯とかまともに食べられないじゃない、って吐きそうになってたら、どうしてだか御厨さんまで部屋から出てきたの。

「・・・ちょっと御厨さん、あなたまで彼らから離れてどうするつもりなんですか?」
 遺族に気を遣ったのかもしれないけど、あまり感心できることじゃない。そう思って意見したら、彼はあたしの耳元で小声で言ったの。
「榊さん、あの番頭の男なんですが・・・以前この近くでうろついているのを、見掛けたような気がするんですよ」
「・・・何ですって?」
 あたしは気配を伺いながらも、御厨さんを引っ張って部屋から遠ざかる。
 部屋からはひそやかに、女房の泣き声が聞こえ始めた・・・。

「いつなの? それは」
「確か一月ぐらい前かと。私が見回りに出た時に、こちら(役宅)へ歩いて来た者があの男に良く似ていたような気が」
「それはおかしいわね・・・」
 さっきも言ったけど、普通町人が用事があるのは町奉行所の方なの。放火とか、押込み強盗とかに遭ったことでもない限り、あるいはその下手人でもない限りは、ここへ来る用事なんてありえないはず。
 ひょっとして今回の事件に関わりがあるのかも───そうは思ったけど、単刀直入に尋ねて口を割るとも思えないでしょ。だからとりあえず、又之助の話を聞くことで様子を見るってことに、御厨さんとも意見が一致したわ。

 女房が落ち着くのを見計らって、あたしたちは部屋へ静かに戻る。
 あまりに惨い死に様だったせいだからか、死体には再び筵がかけ直してあって、あたしを心底安堵させた。
「岸井屋とやら」
 とりあえず人当たりの良さそうな御厨さんが、又之助の女房に話し掛ける事になった。
 その後ろであたしはと言えば、それとなく番頭の雰囲気を見守っている。
「時に聞きたいのだが、又之助は誰ぞに怨みを買うような人物であったか?」
「怨み、でございますか。・・・それは、商いなどしております故、どうしても私どもの知らないところで少しばかりの怨みは、買っていようとは思うのでございますが・・・」
「殺されるような怨みには覚えがない、と?」
「は、はい、さようでございます」
「殺されるような、と申されますと、まさか旦那様は殺されたと申されますのか?」
 すかさず、驚き顔の番頭が聞き返して来た。
 ・・・結構鋭いわね。ま、そのくらいじゃないと、番頭がつとまるはずもないか。

「それを今調べているところだ。・・・では又之助の様子は、このところどうであったか」
「どう、と申されますと?」
「何かに脅えていたとか、金回りが良くなったとか、逆に金に困っていたとか───そう言ったことだ」
 女房の方は緊張と悲しみとで頭が良く回らない、と言った感じ。それで見かねた番頭が、おずおずと口を挟む。
「・・・金回りが良くなったわけではございませんが、このところ旦那様はどこか脅えておられたようで。可愛がっていた飼い猫がいなくなった時、祟りだ呪いだのと取り乱しておられたり。いえ、猫の方はその後すぐに帰ってまいりまして、旦那様はそれは喜んでおられましたが。・・・後は・・・そのう・・・」
 言いにくそうに番頭が視線を送るのに気づいて、今度は女房が涙を拭いながら言葉を繋いだ。
「・・・どういうわけかこのところ、うちの人はてまえどもの息子を、そばに寄せ付けたがらなかったんでございますよ」
「息子を?」
「ええ。年を取ってからの子供でしたから、それは可愛がっておりましたのに、ここ一月ばかりは顔を見るのも嫌がるほどで。可哀想に、息子は父親に嫌われたかと泣いておりました。・・・でも今にして思えば、あれは嫌がっていると言うよりも、怖がっている、と言った方がよろしかったように思います」

 ───息子を怖がる父親、ねえ。
 成人して乱暴になった息子を父親が怖がる、って言うなら、話も分からないではないんですけど・・・さっきから聞いてると、その息子ってどうもまだ子供って感じがするわよね。なのにどうして・・・。

 ・・・その時ふと、あたしは又之助の死体を思い出した。
 正確には死体の首筋に残っていた爪痕を、だけど。───普通飼い猫に怪我を負わせられたら、それこそそばに寄せ付けないんじゃない? なのに遠ざけられたのは猫の方じゃなく、幼い息子の方だった、なんてちょっとおかしいわよ。
 それに今よくよく考えたら、あの引っ掻き傷、猫のものにしては大きかった気がする。どちらかと言えば幼い子供に引っかかれた、って方がしっくり来るわ。

 ・・・じゃ、何?
 又之助ってば本当は息子に引っかかれたのに、それを飼い猫のせいにしてたってこと?
 確かにそれなら、幼い息子を邪険にしてたり、怖がってたりしてた理由は、説明がつくってものよね。
 このことは、今回の事件には無関係なんだろうけど・・・一体何考えてたのかしら、又之助って男は。そうも露骨に息子を怖がるのなら、引っかかれた事実まで隠す事、なかったんじゃないの?

「一月前、と申したな」
 あたしの困惑をよそに、御厨さんは徐々に核心へと迫って行く。
「その頃又之助なり、岸井屋なりに何か事件でもあったのか? 些細な事でもいい、思い出せぬか?」
 そう言った時。
 又之助の女房と番頭の顔に浮かんだ表情───それは何故か揃って「困惑」だったわ。
 それも「聞かれたくない事を聞かれた。どうしたものか」ではなく、「どうしてそんなことを聞くんだ」と、こちらへ訴えるようなもの。
 ・・・って、何でそんな顔向けるのよ? それも、あたしたちに。

 あたしも、そして御厨さんもそれこそ戸惑っていたら、番頭は少し苛立ちの混じった声で、こう言ったじゃないの。
「何って・・・覚えていらっしゃらないので? 手前どもの旦那様は、こちらの火附盗賊改方に呼ばれたんでございますが。・・・一月前の、おろくと言う女が火付をした大火事───あの火付をしたのが、他ならぬ旦那様だと間違われたせいで」

 何ですって───!?


 御厨さんがあの番頭に見覚えがあるわけよ。
 彼は、さっき言ってた火事の件で引っ立てられた主人が心配で、この役宅まで足を運んでいたんだから。
 でも、あたしたちが岸井屋の主を忘れていたからって、そっちも責められる筋合いはないわ。
 だってこのところあちこちで火事やら、押し込み盗賊やらであたしたちは連日大忙し。自分が最後まで担当したんならともかくも、途中で人に任せた事件まで覚えてられるわけ、ないじゃない。どうせ文句を言うんなら、事件を起こした盗賊たちへにして頂戴な。

 とりあえず岸井屋たちを死体共々帰してから。
 あたしと御厨さんは大慌てで過去帳を漁ったわ。番頭が言ってた火付の件を再確認するために。

*********************

 一月前の大火事───それは、一時期世間の関心を集めた事件だった。
 風の強いある日の昼四ツ(※現在の時刻に直すと午前10時)過ぎ、日本橋の呉服屋・小津屋から上がった炎はまたたくまに付近の家々まで燃えつくし、主一家を含む死者九名(全員焼死)、重軽傷者(ほとんどが火傷)弐拾弐名、延焼家屋八棟と言う大惨事を引き起こした。
 ただちにあたしたち、火附盗賊改が出張る事となったのは、ま、当然の事よね。
 もっとも、この小津屋って商人は店を大きくするためにって、裏では結構あくどい事をしてたって有名だったのよ。加えて、主を怨んでたり、殺したいと思ってた人間は山ほどいた。もし火事の原因が失火ではなく火付だったとしたら、犯人探しにはかなりの日数を要するとあたしたちは覚悟してたんだけど・・・予想もつかない形で、下手人がアッサリ御縄となったの。

 きっかけはまず、小津屋裏手の焼け跡から、身元不明の子供の焼死死体が発見された、って事からだったわ。
 年の頃は十ほどのその子は、何故か小津屋夫妻の子供でも、奉公人の子供でもないみたい。身元を判別できそうな手がかりと言えば、わずかに焼け残った衣類と、後頭部に残った小さな怪我の跡。・・・でも怪我の方は新しいらしく、多分逃げる時に転ぶか何かしたもので、そのまま気絶して焼け死んでしまったのだろう、と言うのが医者の見立て。死骸の身元を証明するものには、なりそうにもなかった。
 大体、小津屋の人間ではない者がどうしてここに・・・って首を傾げていたらそのうち、ある女が「自分の弟かも」と、焼け跡で検分中だった火附盗賊改の役人に名乗りをあげて来て。死体を検めさせたところ、着物の焼け残りとか背格好でどうやら間違いない、ってことになっちゃったわけ。
 そしたら彼女その場に泣き崩れちゃって、戸惑う皆に向かってこう言ったらしいわ。
「私が小津屋に火を付けたんでございます。どうか早く死罪にして下さいませ」
・・・ってね。

 聞けば驚くじゃない。妙に美人だと思っていたらその女、焼け死んだ小津屋の妾・おろくだったって話なのよ。
 何でも両親は早くに亡くなって、病弱な弟を生き長らえさせるには大金が必要と来る。それで好きでもない男の囲い者に渋々なっていたんだけど、先日いきなり今まで住んでいた家を追い出されちゃったんですって。どうやら旦那の方に新しい女が出来たもんだから、古い妾はお払い箱になったってことね。
 自分はともかくも弟の方は、旦那の援助がないととても生きて行けない。それで何とか思いとどまって欲しいって、何度も頼みに言ったおろくを、小津屋は無情にも嘲笑ったらしいの。
「お前の弟がのたれ死のうと、そんなことはこちらの知った事ではない。そんなことを言いに来る暇があったら、さっさと岡場所でも行って客を取ったらどうだ。まあもっとも、とっくに薹(とう)が立っちまってるお前を買ってくれる男がいれば、の話だが」って。
 人の弱みに付け込んで無理矢理妾にさせられた今までの怨み、そして今、女としての自分を侮辱された怨み───そんなものが積もりに積もってついに我慢も限界に来たおろくは、発作的に火を付けちゃったのよ。
「だったらお前も、身一つで寒空の下に放り出される気持ちを思い知るがいい!」って・・・ね。

 ───だけど本当に悲劇だったのは、彼女の弟が姉のそんな気持ちに、うすうす勘付いていたらしいことだったの。
 おろくが小津屋に火を付けた後、仮住まいの長屋へ戻って来てみれば、大切な弟の姿がどこにもない。病気の身では外へ出かける用事もないはずなのに、と途方に暮れていたら、弟の友達でおろくも顔見知りの子供が訪ねて来て、こう言ったんですって。
「勇之介ちゃんはどこ? 姉上様が帰って来てるってことは、勇之介ちゃんは姉上様を止める事が出来たんでしょ? 一緒に帰ってきたんじゃないの?」
 ───むろん、勇之介って言うのは弟の名前よ。
 弟の友達の何の気なしの言葉で、おろくは全てを悟ったの。・・・そう、姉が大それた事をする前に止めようって、勇之介は病身を押して家を出たって事を。そして行き違いになったばかりか、おろくのつけた火で焼け死んだかもしれない、ってね・・・。

 全てを神妙に打ち明けたおろくは、最後にこう、尋ねたって言うわ。
「私が地獄へ落ちるのは当然でありましょうが、弟は、勇之介は極楽浄土へ行けるでありましょうか? それだけが、心残りでございます」
 それからほどなく、おろくは火あぶりの刑に処せられたわ。


 え?
 姉弟の悲劇は分かったけど、それがどうやって岸井屋に繋がるか、ですって?
 ・・・ま、それはおいおい教えてあげるわ。


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※・・・スミマセン、文章の量が多すぎてエラー起こしたので、2つに分けます(汗)。こんなの、ちゃんちゃん☆ぐらいだろうなあ・・・。



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