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茂保衛門様 快刀乱麻!(3)−2 外法帖
2002年03月16日(土)

※続きです・・・長くなったからマズいな、とは思ってたんですが、エラー起こすとは☆
とりあえず、どうぞ。

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「浅はかな女よね」
 事件の帳面を読み終わって、あたしはすっぱり言い切った。
「・・・手厳しいですね、榊さんは」
 ま、お優しい御厨さんがこう応えるのは、何となく予想がついてたけど、そのまま持論を続けるあたし。
「でもだって、そうでしょう? 確かに今までの怨みがあるからって、すぐに感情的になって火を付けちゃうなんてさ。それで火あぶりになんてなったら、それこそ病弱な弟とやらがのたれ死んじゃうのは、目に見えるじゃない。
ここは自分のためにも、弟のためにも、新しい仕事でも見つけて頑張ろう、って気持ちにだけでもなってたら、結果は少しは違ったと思いますけどね」
「・・・・・」
「ま、人の思いはそれぞれか」
 あたしはそう言って、話を打ち切った。御厨さんの反論は、あえて聞こうとも思わないわ。

「しかし、あの事件の関係者が死んだとなると・・・犯人はおろくっすかねえ?」
 今まで黙って帳面をめくるあたしたちを見ていた与助が、そう言って話に加わってくる。(与助は役人じゃないから、事件帳簿はおいそれと閲覧できないのよ)
 美人が事件に絡むとなると、俄然張り切っちゃうって言うその性格、分かり易いわね全く。
「おろくの怨霊だと言いたいのか? 与助」
「だってそうとしか、思えねえっすよ。この世に未練を残した美人幽霊が、せめて極楽浄土へ行った弟が寂しくないように、あの火事で死にぞこなった連中を道連れに狙ってるとしか・・・くうううっ、何て弟思いなんだっ、泣かせるじゃあありやせんかあっ」
 弟が寂しくないように道連れを、ねえ・・・。
「与助・・・あんた、御芝居の脚本書けるんじゃないの? 何ならそっちに転職する?」
「殺生な事、言わないで下さいよぉ榊様。親分も何とか言って下さいってば」
「何とかと言われても・・・」
「あっしは岡っ引きが天職と、心に決めてるんでさあ」
 与助の天職だか、転職だかはまあともかく。
 あたしはむしろ、おろくはとっくに怨みは残してないって気がしたんだけど。弟の供養のためにも、さ。だって変に他人を怨んだせいで、弟の勇之介は死んだんだから。まあ、それこそ人の考えはそれぞれだけど。

 でも、それはどうやら御厨さんも同じだったらしい。
「生き残りを道連れにしたいと願うなら、どちらかと言うとおろく姉弟以外で焼け死んだ者だと、俺は思うがな。彼らは理不尽にも、言わばおろくと小津屋の痴話喧嘩に巻き込まれたのだから」
「・・・そうね。自分たちの無念を思い知れ、ってばかりにね」
 そう相槌を打ってたけど、あたしはその時おかしな事に気づいた。
「でもさあ、何で火傷も怪我もしてない岸井屋を狙うわけ? ・・・例えばスリが道で財布を狙うとするじゃない。屈強の男と、火傷や怪我を負った人間と、どっちが狙いやすいと思う?」

 本格派のスリともなると、実は困ってるような人間からは絶対スリ取らないとは聞いてるんだけどね、まあ例え話って事で。
「・・・火傷も怪我も負っていない岸井屋を殺すとなると、手間取るのが目に見えてますしね。火付としても同じことだ。すぐに消火されるかもしれない、か」
 御厨さんがそう言って首を捻っていると、何故か与助がポン、と手を打った。
「わかった! きっとその怨霊なり幽霊は、榊様のような御人なんだ」
「・・・何ですって?」
「自分の美貌とか、美肌とかに自信があったりしたんじゃないっすかねえ。で、火傷を負わせられて、怨みに思った。だから、火傷を負ってない岸井屋を妬ましく思って火を付けた。・・・どうっす? いいセン言ってると思いやすが・・・って、どうしたんです、親分」
「・・・いや、何でも・・・」
 横目で睨むと、御厨さんてばソッポ向いて言葉を濁してる。
 ───ふん。おおかた御厨さん「あたしとそっくりな幽霊」って言うのを想像しちゃった、ってところでしょうよ。子分の言葉につられたとは言え、ちょっと失礼しちゃうじゃない。
 でも、まあ確かに与助の指摘通り、あたしが焼け死んでお顔に惨い火傷でも残ったりしたら、うらめしや〜〜って化けて出るかもしれないけど。・・・って、何言わせるのよ☆

「とにかく、色々と再調査してみないと分からないわね」
 あたしは帳面を閉じて、気分を引き締めることにする。
「とりあえず与助、あなたはおろくの火事で火傷を負った連中に聞き込みを開始して頂戴。あなたの説がもし当たってたら、案外生き霊って事も有り得るし。祟るにしたって、体が弱ってる人間の方が楽に呪い殺せるだろうし」
 あたしがそう指示を出すと、与助ってば情けない声を上げた。
「あっし1人で、っすかあ?」
「御厨さんはこれからあたしと、木綿問屋の笹屋のところへ行かなきゃいけないの」
「・・・・・」
 ちなみにこの笹屋って言うのは、岸井屋と一緒に役宅へ呼ばれた人間よ。小津屋から火が出た直前に、「所用」で訪れていたってことでね。
「も、もし生き霊だったらどうするんすか〜。あっし1人じゃ太刀打ちできないっすよお」
「あなたねえ・・・仮にも御厨さんの子分を名乗ってるんなら、もっと男を見せなさいな」
「そうは言っても・・・」
 よほど心細かったのね。いつまでもボヤいてた与助だったけど、ふと気がついたように顔を上げた。
「そうだ! どうせだから龍泉寺の連中にも手伝ってもらう、ってのはどうっす?」

 いきなり思いもよらぬ名前を出されて、あたしも御厨さんも眉をひそめずにはいられない。
「・・・与助・・・」
「だって聞くところによると《龍閃組》って、鬼とか怨霊とかと戦って、勝って来たって連中でしょ? やっぱり餅は餅屋って言うか、専門家の手を借りた方が良いんじゃねえかと思って」
 そうしやしょう、と、今にも駆け出しそうな与助を、だけど御厨さんは制した。
「そんなわけにはいかんだろう。彼らは言わば、公儀隠密だ。今回の事件は正直言って、畑違いになると思うがな」
「けど、今までだって・・・」
「今の彼らは黒蠅翁などと言う、得体の知れない人間の行方を追っている最中ではないのか? ただでさえ忙しいのに、手を煩わせるわけにはいかぬと思うが」
「忙しいって・・・何か最近は暇そうっすけど」
 ───確かに、最近の彼らは街中を巡回してるだけで、大きな事件に巻き込まれてる気配はないわね。でも・・・。
「いざって時には、それこそ寸暇を惜しんで戦う羽目になるんですよ、彼らは。今は骨休めの時期だと思った方がいいと思うけど」
 それに、と、あたしは何とか食い下がろうとする与助にピシリと言ってやる。

「与助、あなたには火附盗賊改としての誇りはないの?」
「・・・!」
「あたしたちには、この江戸の町を火付と盗賊から守らなきゃいけない義務があるんですよ。なのにその義務を放ったらかしにして、公儀隠密に頼っていては話にならないじゃないですか。・・・せめて火附盗賊改が正式に廃止されるその日まで、果たすべき義務ぐらいは果たしておかないとね。岡っ引きが天職だ、って言うんなら、行動で証明してみなさいな」
「・・・へい」
 さすがに自分の言い草が、怠慢のなれの果てと気がついてくれたみたいね。与助は神妙な顔をして、渋々だけど頷いたわ。

「じゃ、さっそく行って来やす」
 気合いを入れ直して1人で出かける与助を、あたしは見送ろうとしたんだけど。
「・・・あ、ちょっとお待ちなさいな。もう1つ、調べてきて欲しい事があるんだったわ」
 ふと思い出した事があり、慌てて引き止める。
「何を調べるんすか?」
「死んだ岸井屋の主なんだけどね、どうもこのところ女房に内緒で、岡場所に入り浸りだったらしいわ」
 あの律義者の番頭が、奥方の耳の届かないところでそっと教えてくれたのよ。
「馴染みの遊女が、何か知っているかもしれないじゃない。それとなく聞き出して頂戴な。・・・あんまり、長居はしないようにね」
「へいっ!」
 出かけるところに岡場所が加わった、ってことで、与助ってば妙に張り切っちゃってるわね。ホントに単純だこと。

「じゃ、あたしたちも早速出かけるといたしますか、御厨さん」
 一目散に走って行った与助を見ながらあたしがそう言ったら、御厨さんはどこか怪訝な目をしてこっちを見る。
「? 何よ」
「いえ・・・何も、榊さんが出る事もないと思うもので・・・」
 確かに御厨さんが言う通り、与力が調査に出る事は本来ならあまりないの。同心たちに調査を任せてあたしたちは役宅で取り調べ、って言うのが普通なのよね。
「今回は他ならない、このあたしが目撃者ですからね。他の人では分からない手がかりが、あるいは掴めるかも知れないじゃない。・・・それともあたしが同行しちゃ、何かまずい事でもあるんですか?」
「そう言うわけじゃなく・・・少しお疲れなのでは?」
 ・・・あら、顔に出ちゃったってわけ? うまく隠してたつもりだったのに、御厨さんてホント侮れないわね。
 まあ、気遣ってくれる事自体は、とっても有り難いんだけど。
「疲れてるからこそ、さっさと事件解決に乗り出したいのよ、あたしは」
「は?」
「・・・焼き魚、あれから全然食べられないのよ」

 �爐△譴�ら�瓩辰討い弔里海箸�、ですって? 決まってるでしょ。岸井屋の主の、焼き立てこんがりの焼死体を見てからよっ☆
「お刺し身は高いし、御飯ばかりじゃ力が出やしないし、このままじゃあたし財政的にも体力的にも干上がっちゃうわっ。こうなったら是が非でも、自分の力で犯人捕まえて精神的安定を手にしなきゃ、って思ってるの。これっていけないことかしら? 御厨さん」
「・・・・・☆」

 闘志が変な方向に燃えてるな、とは自分でも思うけど、しょうがないわよ。
 ・・・とにもかくにも。
 御厨さんは諦めの態度として、軽く溜め息を吐きながら天井を見上げてみせたのだった。


《続》
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※ちょろっとだけ、《龍閃組》の話が出てくれてほっとしてます。もちろん出番はこれだけではありません。これからそこそこ登場する予定です。
 それと、作中で女性が火あぶりになったとしてますが、お芝居などで有名な「八百屋お七」が、後にも先にも火あぶりに処せられた唯一の女性だった、という説もあるみたいですね。まあ、この辺りはフィクションと言う事で、勘弁してくださいませ。





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